第五十七話 ・・・・・・最低
―――ルナ・ドーム
翔と隼は、電力が回復した5分後には、目当ての情報を手に入れていた。
「よし、準備良いか?」
「・・・・・・・・・ホントに“メインコンピューター室”に戻るの?」
葵は心底嫌そうな顔をしている。
「・・・・・・・・・・俺だって正直行きたくねぇけど、ここはあまりに危な過ぎる」
「分かってるけど・・・・・・・・・」
「都合よく、防護服もガスの探知機も“ここ”にあるし、大丈夫だよ」
この部屋の床下には、その二つのみならず、食料、武器、無線など、必要なものは全て隠されていた。
「都合よすぎる・・・・・・・・・ちょっとは怪しまないの?」
葵は気に食わなかった。この危険のにおいがぷんぷんする状況も、全く同じタイミングで吹き出した“男ども”も。
「・・・・・・・・・何よ??」
「あのさぁ、哲から、“罠に対する対処法”教わんなかったの?」
「全然。・・・・・・・・教えて?」
“男ども”は顔を見合わせ、再びニヤッと笑った。
「“きっと何とかなると思って”」
「“迷わず罠に、身を投げろ!”」
葵は興味を持ったことを後悔した。そんな彼女の表情がまた可笑しかったらしく、翔と隼は大笑いしている。
「・・・・・・・・・馬っ鹿じゃないの?」
この冷たい一言で、二人は急に神妙な顔になった。
「まぁ、それは冗談として、ここにいるより外のガスの中にいた方が安全なんだよ」
実際、三人とも、いつ南に殺されてもおかしくない状況にあるのだ。
それには、葵も同意せざるを得ない。ただ、どうしても、罠に か か り に い く という行動には賛成できなかった。
「でも・・・・・・・・・」
「くどいねぇ、君も」
隼が困った顔で言う。
「信用しろよ。俺も、翔も、全くの馬鹿って訳じゃないんだからさ」
「・・・・・・・・・考えがあるなら教えてよ」
葵は憂鬱そうに言ったが、隼は茶化すように返すだけだった。
「それじゃ、面白くねぇだろ?」
葵が目を限界まで細めて彼を睨んだが、結局何の答えも返ってこなかった。
“哲そっくり”
あえて声には出さなかった。
葵にとって残念なことに、通るルートも哲と同じだった。
つまり、薄汚い通気孔である。
“・・・・・・・・・最低”
「え?なんか言った?」
「・・・・・・・・別に」
二度目だろうと“慣れる”ということはない。
葵の“不機嫌”のオーラを感じ取った二人は、黙って先へ進んだ。
ところで、これは罠だった。
すぐに命を奪うための罠ではないが、確実に三人を 使 え る も の に す る 罠 だ。
南は彼らの動きをしっかり把握していた。
確かに、三人は彼らを見張るための盗聴器、監視カメラを破壊できる。
だが、彼らを追尾するのに全く手段が無いわけではないのだ。
そう、彼らに仕掛けられた“旧式の発信機”は、何事もないかのように信号を送り続けていた。