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第五十六話    “ハティ”

「・・・・・・・・・何故だ、正田」


羽下は正田の顔をじっと見つめていた。額から血を噴出している筒井には目もくれない。


「なんてことはない。そろそろ彼に退場してもらう予定だった、というだけだ」


彼はモニターを起動し、なにやら作業を進めていく。羽下は聞かずにはいれなかった。


「・・・・・・・・・正田、お前は 勝 つ つ も り で い る の か?」


正田は一瞬、動きを止めた。しかし、その次の言葉の無機質さから考えると、ただ、作業が終わった瞬間だったというだけかもしれない。


「静かにしていろ。大統領から通信が入った」


「・・・・・・・・・」



羽下は ご く 自 然 に 右 手 を 上 げ 、異議がないことを示した。



この二人の会話は聞かなくても分かる。


正田が“CIAエージェントと思われるテロリスト”について大統領にまくし立て、大統領は大統領で“発射準備が整えられた核ミサイル”についてわめくのだ。


羽下は筒井の脇にしゃがみこんだ。


「・・・・・・・・馬鹿野郎が。何で正田なんかを信じた。これじゃ、詩織に申し訳がたたねぇだろうが」


彼は“Fenrir”のまぶたを閉じてやってから立ち上がり、吐き捨てるように言う。


「あいつは、お前の目を覚ますって息巻いてたのによ・・・・・・・・・・」


彼はふと筒井の銃を拾い上げ、胸ポケットに納めた。そして、左手にぶら下がってる手錠を右手にもはめなおし、大統領が映っているモニターに目をやった。



“・・・・・・・・・これ以上、ニッポンの暴走を許すわけには行かない。1時間以内に武装を解除しなければ我々は“核”をつかう”


「そちらの国のテロリストについては何の説明もなく、いきなり宣戦布告とは・・・・・・・・そちらの強硬な姿勢はあるまじき行為だ。覚悟を決めておくんですな」


通信は切れた。



待ってましたとばかりに、羽下が嘲る。


「・・・・・・・・・ハハ、茶番は終わったのか?」


「いいや、これから始まるんだ」



正田は再びモニターを起動する。通信相手は、三浦 和輝だった。



「三浦司令官。君達は何をやっていたのかね?羽下はここまでやすやすと進入して来たのだが?」


三浦は無表情のまま、頭を少し下げる。


「申し訳ありません。どうやら、羽下は私どもより何枚か上手だったようです」


正田は不服そうに鼻を鳴らした。


「この次は、まともに働いてくれるのだろうな?」


「・・・・・・・・・了解しました」


「早速だが、先程、“ルナ・ドーム”の“南司令官”が反乱を起こした」


「・・・・・・・・・はい?」


三浦は目を丸くした。


「厄介な事に、あそこには大量破壊兵器が“いくつか”備わっている。そこで、先手を打ってこちらからあれを破壊する。すぐに“ハティ”発射準備にかかれ」


「しかし・・・・・・・・・!」


「説得にかける時間はない。一刻を争うのだ」


「・・・・・・・・了解、しました」


正田は通信をきった。




正田が描いたシナリオはこうだ。



ルナ・ドームからのミサイル“レーヴァテイン”がワシントンを、アメリカからのミサイル“ゼファー”が東京を、日本からのミサイル“ハティ”がルナ・ドームを襲い、世界の大掃除が始まる。



何度目の“大戦”かなんて気にすることはない。間違いなく“最後”なのだから。



一人残らず、破壊の渦の中で息絶える。



最初の一撃をややこしくした理由はいくつかある。




一つ。三浦 和輝だ。


彼が“始まる”前に気づいたなら、この計画は絶対に阻止される。三浦はそういう人間なのだ。


だから、彼を通してアメリカ合衆国にミサイルを放つわけにはいかなかった。だから、三浦の命令下にない部隊を形成するために、“ルナ・ドーム”を用いたのだ。


二つ。日向 政史だ。


彼は物事の中心から出来るだけ遠くにやる必要があった。これは大統領からの要望でもあった。


“彼がいたなら、私達の企みは見抜かれてしまう”ということらしい。


だから。彼を“ルナ・ドームのトップ”という名目で月に送り込んだのだ。



三つ。 安 全 な 逃 げ 道 を 用 意 す る た め だ。


もし、仮に計画が途中で失敗に終わっても、正田に罪は降りかからない。


正田が直接命じるのは、凶悪な反乱分子が占拠したルナ・ドームを破壊するということだけなのだ。




世界は、着々と“神々の黄昏(ラグナロク)”に向かっている。




その前に訪れるのが“フィンブルヴェト”と呼ばれる、3度も続く恐ろしい冬。




この、3発の核ミサイルだ。








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