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第五十五話    全くだ

「さて、いよいよ大詰めだ」



通信を終えた正田は、無表情なままで呟いた。言葉の隅に、ここまで来た疲れが一瞬にじみ出た。が、一瞬緩んだ気持ちは、羽下の一言で再び引き締められた。



「・・・・・・・・“People Tempted Providence”」



「・・・・・・・・何!?」


羽下は相変わらず笑みを見せていた。


「知ってたんだよ、 俺 達 は 」


「・・・・・・・・!!」


正田は何とか冷静さを保とうとしていた。羽下が続ける。


「“人々は神意に逆らった”。この言葉が意味するのは、1945年、8月6日、9日に原子爆弾が投下されたこと。そうだろ?」


正田は黙ったまま動かない。


「・・・・・・・・“edを外せ”の意味も簡単だ。“People Tempted Providence”から“ed”を外せばいい」


「・・・・・・・・“人々は神意に 逆 ら う ”・・・・・・・・」


筒井は静かに銃口を上げた。無感情なロボットのような冷たい話し方でさらに続ける。


「“ 核 兵 器 を 再 び 使 う ”という意味だ」


羽下は再び自分に向けられた銃口をちらりと見た。


「・・・・・・・・“前回”と違うのは、一発の威力の高さと、双方からミサイルが発射されるってこと。そうだろ、ツツ?」


一瞬の沈黙が肯定のサインだった。筒井は正田が告げた言葉を繰り返す。


「・・・・・・・・・“ 人 類 か ら 不 純 物 を 取 り 除 く た め ”、だ」


「分かってないな、ツツ。これは“粛清”なんてレベルじゃない。コイツの考えてるのは、人類を滅ぼし絶やすことだ!!」


羽下はイライラと反論したが、筒井の無機質な態度は全く変わらない。彼は見下すような調子で答えた。


「だからどうした。もう、止められやしない。お前は正田の手の中にいるし、“Loki”だって・・・・・・・・」


「だから、正田にすがって生きようとでも?」


自身を遮った言葉に、筒井の顔がぴくりと動く。羽下の目は注意深く彼を観察していた。ついで、がっかりしたような顔になり、肩を落として見せた。


「・・・・・・・・図星か。全く、“Fenrir”ともあろうものが、そんなにも“生”にしがみついているとはね・・・・・・・・・みっともない」


「生きることにしがみついて何が悪い!それは人の(さが)だ!!!」


筒井は猛然と怒鳴った。が、羽下の落胆は深くなる一方だ。


「・・・・・・・・吠えるなよ。余計に空しくなるぜ」


「全くだ」


冷たい声がした直後、一発の銃声が響いた。








彼の名前は筒井 幸一。もしくは“Fenrir”。


表側では真面目で、善良な人間だ。今も、昔も。


しかし、裏側はまるで違う。





彼は友人を売った。





兼を売った時に得た報酬は多額の金だった。





彼は恋人を売った。






詩織を売った時に得た報酬は“Ragnarok”における地位だった。






彼は全世界を売った。






正田が約束した報酬は筒井自身の命のはずだった。





だが正田(クライアント)は突然、支払うものを変更した。






今、まさに彼の頭を貫いたもの。







そう、一発の銃弾が、彼の最期の報酬だ。







筒井 幸一は、床に倒れるよりも前に事切れていた。








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