表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/71

第五十四話    決まってるだろ?

筒井は羽下から拳銃をもぎ取り、弾を抜いて床にばら撒いた。


「・・・・・・・・念入りだな」


「油断大敵、というじゃないか」


当然のことながら、正田はご機嫌だった。筒井は黙ったまま“相棒”の両手に手錠をはめる。


「念の入れすぎじゃねぇか?流石に手錠は必要ないだろ」


「いいや」


正田は自分の目の前にあった書類をぺらぺらめくった。


「勘違いするな。君は 警 察 官 に よ っ て 、 逮 捕 さ れ た ん だ 。法に基づいた正式な逮捕だ」


「そりゃありがたいね。判決が下されるまでは、死ぬ心配がないってわけだな」


羽下の皮肉っぽい言葉は無視された。正田は黙ったまま書類に目を通している。羽下の個人情報―――筒井さえも知らない、極秘なものも含まれている―――が記されたものだ。


「・・・・・・・・“アメリカ国籍の男が、日本国総理大臣を暗殺しようとして官邸に押し入りました”」


正田がぴくりと反応した。羽下は満足そうに笑い、アナウンサーのようなしゃべり方をさらに続けた。


「“幸い、首相は無事、男は現行犯逮捕されました。しかし男はアメリカ中央情報局、いわゆる“CIA”が関係していることをほのめかす供述をしており、日本政府はアメリカ政府に関連を問い合わせています”・・・・・・・・といった流れだな」


「貴様・・・・・・・・まさか・・・・・・・??」


「なんだ、あんた、国家機密が漏れてないとでも思ってたのか?ましてや、“アメリカ合衆国(あちらさん)”のトップも絡んでぐたぐた企んでるんだぜ?この“Phantom Menace”が、見逃すはずがないでしょうが」


「・・・・・・・・“Phantom Menace”??」


筒井が、銃口を羽下に向けたまま、一人で呟いた。羽下は先程までと同じように、いたずらっぽい笑みを浮かべ、肩越しに彼を向いた。


「知らなかっただろ?俺の本当の名前(コードネーム)


「・・・・・・・・それどころか、そんな名前、聞いたこともない」


「当然だ。それこそ、本当の“見えざる敵”(ファントム・メナス)。世界に存在さえ知らせぬまま“仕事”をなす。究極のクラッカー・・・・・・・・・あ、これ、俺のことだぞ?」


「・・・・・・・・君の名前などどうでもいい」


正田はいらだたしげに書類を机の上に投げた。


「・・・・・・・・君が何を知っていようと、今、君に何が出来る?そこでおとなしく、“終わり”を見ていろ」


羽下は声を上げて笑った。


「ハハ!おとなしく?この俺が?」


「黙ってろ!」


彼は背後で筒井が銃を構える音を聞いても、まだ笑みは消えなかった。


「ツツ、この 最 期 の 戦 争 の後、お前の懐にある金に何の価値がある?」


「・・・・・・・・」


「もっと言えば、 お 前 が 生 き て い ら れ る か さ え わ か ん ね ぇ ん だ ぜ ?」


筒井は、静かに銃口を下ろした。そして―――暗がりにいたため誰にも見えなかったが―――微笑んで見せた。


「そもそも、この世界に価値はない、そうだろ?」


「出た出た。勘弁してくれよ・・・・・・・・」


正田は二人を無視し、ルナ・ドームとの通信を開始していた。羽下もやはり、正田を無視した。



「お前にとって無価値でも、俺達にとっちゃそうじゃない。だから・・・・・・・・」


正田は軍人らしき男がモニターに写ると、間髪入れずにたずねた。


「南、無事か?」


まるでこちらには注意を寄せていない。


「・・・・・・・・俺と、“ 究 極 の ハ ッ カ ー”が手を組んだ。あの正田(ジジイ)を止めるために!」


「究極の・・・・・・・・ハッカー・・・・・・・・?」


「決まってるだろ。“Loki”(キツネ)だよ」


羽下の浮かべた屈託のない笑み。それを見て、筒井は顔を曇らせる。



彼は知っていた。




“Loki”は“Panikhida”の餌食となったはずであることを。



どうすることも出来ない。




ルナ・ドームに毒ガスが満たされたのは、3時間近く前のことなのだ。




正田が言った。







「“ed”を外せ」







もう、誰にも止められない。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ