第五十三話 そこまでだ、“相棒”
二人はシェルターにたどり着いた。
入り口を開け、中に入ると、正田 賢治が真正面に座り、退屈そうに頬杖をついていた。
「・・・・・・・ずいぶんと時間がかかったな。お前達も大したことはなさそうだ」
「・・・・・・・正田、自分の命が少し延びた分を喜んだらどうだ?」
羽下は既に銃口を正田に向けていた。だが、正田は表情を動かさない。
「・・・・・・・“話せば分かる”とはいわねぇのか?」
「そう言えば、“問答無用!”と撃たれるだろう。羽下君」
「・・・・・・・・」
羽下は、正田の“余裕”の正体にうすうす勘付いていた。
だから、大して驚かなかった。
“あの時”も、だ。
絶妙すぎるタイミングで奴らが反撃を開始したのにも、“相棒”が妙に潔く逃げることを選んだことにも、驚かなかった。
もっと言えば、ばれる筈のない俺達のプロジェクトがばれたことにも。
ただ、“相棒”は知らなかった。
俺があの“国家機密”をとっくの昔に盗み出していたことを。
張り巡らされたセキュリティーも、複雑な暗号も、意味を成さない。
“見えざる敵”・・・・・・・“Phantom Menace”にとっては、そんなものないに等しいのだ。
“Phantom Menace”という名前も俺しか知らない。
その存在に気づく者すらいないからだ。
だから、あのプロジェクトは 単 な る 試 験 紙 に 過 ぎ な か っ た 。
筒井に用意すべき餌は何なのかを見るための。
そう、筒井は多額の金を受け取る代わりに、俺の動きを敵にばらした。
つまり、だ。
奴を釣るのに、特別なものは何もいらない。
ただ、奴が満足するだけの金があればいい。
それを把握したからこそ、その後の“仕事”は大体が“成功”を収めた。
正直、一人でやれば、誰にも気付かれる事なく、全ての仕事を終えられたのだ。
多分、俺もまだまだ修行が足りなかった。
俺は、誰かに気づいてほしかったのだ。
俺の力を示したかった。
だから筒井を組み、わざわざ気づかれるように動き、無駄にセキュリティーに引っかかってもみたのだ。
俺は数年間ずっと筒井と組み続けた。
自分のアホさ加減に気づくまで、ずっと。
あいつとのコンビを解消してから―――つまり、俺が“Phantom Menace”に戻ってから、五年が経った。
それでも、“相棒”のやりそうなことは手にとるように分かる。
“ 正 直 者 が い つ で も 正 直 と は 限 ら な い が 、 裏 切 る 者 は い つ だ っ て 裏 切 る ”
だから、驚きゃしない。
筒井が銃を俺の後頭部に突きつけても。
「そこまでだ、“相棒”」
背中になにやら硬いものが当てられる。
俺はさっさと手を挙げ、降参のポーズをとった。
「そうらしいな。・・・・・・・・“相棒”」
やっぱり、そう来たか。
・・・・・・・・・・・ここまでは、“奴”の予想通り。