第五十二話 簡単すぎる
軍は二人が侵入する可能性のある二つのルートを完全に包囲した。
が、外から見ただけでは、全く気づけないだろう。
狡猾に準備された罠。
後は、獲物が飛び込んでくるのを待つだけだった。
残念ながら、獲物は彼らの想像以上に賢かったわけだが。
羽下と筒井は、警備の手薄い“官邸ルート”を使用して侵入していた。
当然、こちらのルートにも監視カメラや、少数の兵はいるが・・・・・・・
「監視カメラの映像、止めたぞ」
「よし、陽動作戦、開始だ」
軍の張り込んでいるルートのそばで爆発音が鳴り、煙が上がった。当然兵士達からは見えないが、彼らの無線機に通信が入る。
“Aルートに応援要請!!奴らが現れた!”
「おい!」
「ああ!」
彼らは軍用車に乗り込み、即座に立ち去った。
二人は堂々と官邸の正面から中に入った。
「あいつら、あんな簡単に引っかかって、将来が心配だなぁ?」
筒井は肩をすくめた。
「心配ないさ。むしろ、最高の兵士になれるかもしれない」
「何で?」
「兵士ってのは、命令どおりに動けばいい。頭なんてないほうがいい」
二人は中をずんずん進んだ。
隠し通路も簡単に開け、地下のスペースにもぐりこむ。
全く何の障害もなく、だ。
流石に羽下が呟いた。
「・・・・・・・・簡単すぎる」
「ああ。これは恐らく罠だ」
筒井はさらりと言う。
「・・・・・・・・罠?どんな?」
「まぁ、恐らく、俺達を始末する仕掛けがあるんじゃないかな?」
羽下の舌打ちが響く。
「んなこたぁ分かってんだよ!どういう風にそうするかを聞いてんだ」
「馬鹿か、お前は。そんなことは正田に聞け」
筒井は地下道をすたすた歩いていった。羽下は毒づきながら、その後ろについて歩いていった。
そう、あの時と、状況がそっくりなのだ。
筒井は初仕事のことを思い出していた。
違うのは俺達が狙う獲物が、現実世界にいるか、ネットワーク上の仮想世界にいるかというだけだ。
一見何の障害もないルートの上に、狡猾な罠が仕掛けられているところも。
まぁ、あの時、俺は失敗と引き換えに“ 報 酬 ”を 手 に し た わけだが。
アメリカ政府は、何が自分にとって危険なのか、どうすればそれを回避できるかの判断が鋭敏だった。
彼らは闇を闇の中に保つことに成功し―――
―――俺は“ちょっとした”金を受け取った。
当時、俺にとっての“でかい事”とは、でかい金以外の何物でもなかった。
アメリカ政府にとって、“闇”の露呈は混乱を生み、自らの破滅を意味した。
つまり、丸く収まる理想的な取引がなされたわけだ。
俺は友人をほんの少し騙すだけで、向こうは有り余る金のほんの一部を渡すだけで、目的を達成出来た。
妙に重なるのだ。