第五十話 論外だろ?
羽下は電話をかけている。
「・・・・・・・もしもし?総理頼まぁ」
“・・・・・・・名前も言わずに“総理頼まぁ”は無いだろ・・・・・・”
筒井の懸念をよそに、電話は正田につながる。
それと同時にモニターに彼の様子が映し出された。
“・・・・・・何かつかめたのかね?”
スピーカー越しに聞こえる声は、機嫌が良いわけではないが、不機嫌にも聞こえなかった。
「いや、全く。だが、あんたに報告があるんだ。俺達は、あんたを暗殺することにした」
正田の顔色がすぐに変わる。何故か、筒井が舌打ちをした。
“・・・・・・・それは・・・・・・・君等の宣戦布告になるのかね?日本に対する・・・・・・・・”
「・・・・・・・・いいや。“正 田 賢 治 に 対 す る”宣戦布告です」
正田が叫んだ。
“その両者に違いはあるのか!?・・・・・・・・よし、いいだろう。君等が平和に暮らせる時間は終った、と言うわけだ”
正田は電話を一方的に切り、ものすごい勢いで携帯を壁に投げつけた。羽下はモニターを見ながら口笛を鳴らした。
「すげぇ怒り方。その両者の違いが分かってないから、あんたは終わりなんだよ」
盗聴器から聞こえる正田の命令により、二人は“国家反逆罪”などという、訳の分からない罪状で警察に追われることとなった。
「“国家反逆罪”と来たか。よし、もういいだろう」
筒井は映像と音声を切った。
「あの正田は危険を察すると、自分の巣にこもる。その場所は・・・・・・・」
「例の地下シェルターだな。何でも核ミサイルが直撃しても耐えられる構造とか言ってなかったか?」
筒井はスペックを思い浮かべながら答える。
「・・・・・・・そうだ。今の最高の技術を駆使していて、理論上では、耐えられる。その上、食料品なんかの備蓄もかなりのもので、1、2年は中にいても大丈夫らしい。運動設備なんかもそろっていて、もはや避難所という域を超えてるんだとさ」
「そーいやあれはホントなのか?例の遊園地の地下の空間に隠されているってのは」
例の遊園地というのは、千葉にあるにもかかわらず“東京”と名乗っている世界規模の某有名テーマパークのことである。
「あぁ。世界中にある上、もともと地下空間があったらしいから、極秘でいろんな場所で作るのに都合がよかったらしい」
「あぁ、そういう都市伝説あったな」
羽下は感心したように言った。
「・・・・・・・そうだな。さ、進入路だ。調べられたか?」
「あぁ。・・・・・・・・一つ。馬鹿馬鹿しいが、ランドの隠し店舗からは入れるとか・・・・・・」
「何なんだよ、あそこは?」
「さぁ・・・・?二つ目。地下鉄の線が繋がってる。こっちはちょっと苦しいな。地下鉄はいつでも監視カメラが回ってるし、駅員もしっかり見てやがる」
「・・・・・・・三つ目は?」
「・・・・・・・官邸から行く道がある。論外だろ?」
二人は顔を見合わせ、にやりと笑った。