第四十九話 そっくりか?
筒井は自分の計略を、羽下に説明し終えた。
「・・・・・・・正田の行動パターンは分かっているから、そこを狙う。異議はあるか?」
筒井は無機質に言う。羽下は呆れたように笑った。
「なぁ、相棒。もっとリラックスしろよ。それじゃ、最初の仕事ん時とそっくりだぜ?」
「・・・・・・・最初?いつの話だ?」
「さぁ?詳しくは覚えてねぇけど、ドジ踏んだってのは確かだ」
筒井は笑いをこらえた。
本当にこいつは変わっていない。良い意味でも、悪い意味でも。
そうか、思い出した。
確かに、俺達の初仕事は大失敗だった。
羽下の“でかいことやろう”の一言で、やることになった、ささやかな情報戦争だ。
俺達は、某超大国が長きに渡って隠蔽し続けてきた“K氏暗殺事件”の重大な情報を盗みだし、全世界に公開することを計画した。
そんなことやったところで、一文の足しにはならないし、寧ろ危険の方が大きかったが、俺達はやった。ただ単に面白そうだからという理由で。
思うに、羽下のペースに巻き込まれていただけなんだろう。
だけど、それでおおむね、成功 し か け た。
自画自賛になるが、計画は完璧だったし、あと一歩で資料を盗み出すことが出来た。
まったく気付かれない内に、だ。
だがしかし、その国で作業に取り組んで一ヶ月。
俺達は敗北した。
あと数十秒で情報の取り込みが完了するといったところで、急にコンピューターの電源が切れた。もっと言えば、電化製品全てが止まった。
後で分かったことだが、その“某超大国”が、国中の電力を停止させるという荒業をやってのけたのだ。
しかも、電力が回復したときには、情報管理システムは物理的にネットワークから切り離されていた。
まったく持って信じ難いことに、奴らはこっちの居場所まで掌握しかけていた。
ギリギリでそれに気付いた俺達は、ほうほうの体で日本に逃げ帰ったのだった。
あれはまさに踏んだり蹴ったりだ。
あの時に似ているとは・・・・・・・・
「・・・・・・・そっくりか?」
大真面目に頷かれてしまった。
「あぁ。あの頃に比べて、俺達の相手は小さくなってるんだぜ?あいつらに比べりゃ、我が祖国なんかちょちょいのちょいだろうが」
「・・・・・・・・・お前の祖国は日本じゃないって」
羽下はアメリカ国籍だ。
「細かいこと気にすんなよ!じゃ、電話かけるぜ?正田様によ」
羽下は歯を見せて笑った。
筒井は、そういえば、あの時も今と同じような気持ちだったな、と思った。