第四十七話 “ed”を外せ
静まり返った部屋の中に、正田首相からの通信が入った。
“・・・・・・南、無事か?”
正田は、口先だけで言っているようだ。心配している様子が全くない。完璧に無表情だ
南は、まだショックから立ち直っていない。
「・・・・・・・はい。ちょうど今、受刑者達を鎮圧したところです」
“そうか。“Panikhida”の出来はどうだ?”
「・・・・・・・殺傷能力は、十分すぎるほどです」
南がぶるっと体を震わせるのを、正田が冷たい目で見ていた。
“あれはまだ実験段階だ。問題点が多い”
「問題点・・・・・・・・ですか?」
“ああ。血清が至極簡単に・・・・・・・いや、そんなことを話しに来たのではない。南”
「はい」
““ed”を外せ”
「!?」
“こちらは既に動き始めている。すぐにかかれ”
「・・・・・・・了解しました」
通信が切れた。
そのあとすぐ、南は足早に部屋から出て行った。
隼は片膝を立てて座り、壁に寄りかかっていた。頬を膝につけ、何か考え込んでいる。
「・・・・・・・隼?」
「・・・・・・・一か八か、賭けてみるか?」
葵はひざを抱えて座っていたが、急に明るい顔になった。
「何?何するの?」
「・・・・・・・さっき、あのおっさんは、ここで指令なんかを出してた。ってことは」
隼はガバッと立ち上がった。そして、さっきモニターに変わった壁の前まで行き、そこをノックした。
「・・・・・・・てことは?」
「ここに、コンピュータがある可能性が非常に高い」
「でも・・・・・・・・」
葵は“あったとしてもどうしようもない”というようなことを言おうとしたが、途中でやめた。
「・・・・・・・なにやってんの?」
隼が壁に何かをくっつけていた。切手のような大きさの箱だった。
「・・・・・・・下がってたほうがいいと思うな」
翔が遠慮深げに言った。
「・・・・・・・行くぞ。Three, Two,・・・・・・」
「だから、何って・・・・・・」
「One, Zero」ボン!!!
「キャアッ!!」
爆発音がしたが、どちらかというと、葵の悲鳴の方が大きかった。
「おい、盗聴器壊したからってあんまり騒ぐなよ」
「爆弾なら爆弾って言ってよ!!」
二人は哀れむような目で葵を見た。
「・・・・・・・なに?」
「「・・・・・・・はぁ〜・・・・・・・」」
「ちょっと!」
隼の爆弾は、壁に腕が入る程度の穴を開けていた。
“・・・・・・・よし”
彼は躊躇い無くその中に手を突っ込む。
「・・・・・・隼?」
「こーいう機械は、大体この辺に・・・・・・・」
人差し指が何か硬いものに触れる。
そっとなでて、形状を確認する。
“・・・・・・・違うな・・・・・・これか?”
三個目の突起が“それ”だった。
隼はそのボタンを押し、素早く手を引き抜いた。
途端に壁がモニターに代わり、キーボードがどこからか出てくる。
「すご・・・・・・・」
「さて、奴らは何をするつもりなのかねっと」ポン!
翔と隼は画面を指差しながら、次々と操作を進めていく。
“私の出番は無い、かな・・・・・・・・”
葵は反対側の壁に寄りかかり、ぼんやりと画面を見つめていた。
大体5分後。画面に、三つのアルファベットが並んだ。
“P・T・P”
葵はぼんやりと思った。
“・・・・・・・?なんかどっかで・・・・・・・”
「“P・T・P”?いったい何の・・・・・・」
葵は無意識のうちに口走った。
「・・・・・・・・“People Tempted Providence”・・・・・・・・」
「え?」
二人は驚いて振り向いたが、一番びっくりしているのは葵だった。目を見開いて、床を見つめている。
「・・・・・・・・人々は神意に逆らった・・・・・・・」
「・・・・・・・神意・・・・・?」
パチ!
部屋の電気が消えた。
パシュウ・・・・・・・・・
コンピューターの電源も落ちる。
三人とも驚愕の表情のまま、辺りを見回す。
“ばれたか・・・・・・?”
幸い、そうではなかった。
ルナ・ドーム中の電力が、一瞬止まっただけのことだ。
そう、ほんの一瞬だ。
だが、その一瞬で、地球との通信は途絶えた。