第四十六話 勝利を得た顔
南は見せ付けるつもりなのか、三人がいる部屋で指揮を取っていた。小憎らしいほどに冷静に、的確な指示を飛ばしている。
「よし、近藤の隊は正面を。東谷は右手を固めろ。追う必要は無い。あと、5分もすれば、“Panikhida”が満ちてくる」
明らかに、無謀な反乱だった。若い軍人をうろたえさせた情報は、ほとんどがはったりだったようだ。
彼らには武器も、人数も、道具も、ごくわずかで、翔たちの目には、戦略すらないように見えた。
正面から幾人かのグループが徒歩で突撃し、軍の集中砲火の前に倒されるか退却させられるかを繰り返していた。
“・・・・・・・哲は何を考えてんだ?”
翔は思った。
“あんなやり方じゃ、皆死ぬだけだぞ・・・・・・・?”
南が三人を振り返った。
「・・・・・・・・君達の仲間は思ったより考えが無いな」
三人ともモニターに映る戦いの様子をじっと見ている。また十数人が殺された。
「そろそろタイムリミットだ・・・・・・・総員、防護服を確認しろ!」
スピーカー越しに次々と確認が完了したことを知らせる声が聞こえる。
「よし・・・・・・・・そろそろだな」
軍のほうからの銃声が途絶えた。それで、受刑者側が時の声を上げ、あちこちの壕から飛び出す。
と、その時、先頭を走っていた男が、見事に転んだように見えた。
まるで喜劇のような、笑いを引き出しそうな転び方だ。
その後ろの面々も、同じように倒れる。
だが、それは笑いから程遠かった。
葵は口を手で覆い、目をぎゅっと瞑る。
“やめて・・・・・やめて・・・・・・・!!”
その時、感度の良すぎるマイクが受刑者達の断末魔を拾い、部屋の空気を震わせた。その声を聞き、葵の肩がびくっと動く。耳をふさいでも、無駄だった。
長く尾を引いた叫びは唐突に、パタッと止まり、後には背筋を凍りつかせる沈黙が残る。
葵は恐る恐る目を開けた。モニターには、うつぶせのまま動かない、何十人もの死骸が映し出されている。
“・・・・・・・ひどい・・・・・・・”
ふと、葵の目が、何か動くものを捕らえた。
「え?」
「・・・・・・・どうした?」
「あの、真ん中の・・・・・・・・」
彼女が指差したところが、ちょうどアップにされる。
一人の男が映しだされた。
歯を食いしばり、前に向かって這っている。
「あの男・・・・・・・・」
南も驚愕している。
男は静寂の中、そこからさらにゆっくりと進む。前だけを見て、ゆっくりと。
50cm。
1m。
1m50cm。
男はついに力尽き、がくりと頭をたれる。
「・・・・・・・なんて奴だ・・・・・・」
しかし、まだ彼は死んでなかった。
地面に突っ込んだ顔が少しずつ上がり、彼は正面を―――つまり、カメラがある方向をまっすぐに見た。
南は寒気を覚える。
“・・・・・・・・・あの目には、何か、確信がある”
男はさらに、にやりと笑ってみせる。
彼の顔を見た誰しもが思った。
“あれは、 勝 利 を 得 た 顔 だ ”と。
男は、その表情のまま、突っ伏すように息絶えた。
反乱は失敗に終わった。
彼らは、全滅した。