第四十一話 “生き残れ”
三人―――未来、詩織、“Tarsier”―――のすぐ後ろでものすごい音が鳴り、廊下が壁に変わった。三人とも急ブレーキをかけて、立ち止まる。
「「「・・・・・・・・??」」」
と、未来が右耳を押さえる。
「お兄ちゃん!?」
詩織の直感が、彼女に警告を発した。
「未来、それ、こっちにも聞こえるようにして」
未来は不安そうに頷き、スピーカーにつなぎかえる。それと同時に、石井 哲の声が廊下に響き始める。
“・・・・・・聞こえてるみたいだな。こっちにスピーカーはない。一方的に喋るから、黙って聞けよ”
「・・・・・・・?」
未来は詩織を見ていた。詩織がスピーカーを睨みつけているのを。
“いいか?後二分もすれば、この建物はあのガスで満ちる。だけど、“ルナ・ドーム”の内部全体となれば話は別だ。少なくとも一時間はかかると思う。その間に“奥の方”の連中と一緒に本部に攻め込むんだ。出来れば走りながら聞いてくれ”
「・・・・・・だって。いこ!」
未来はさっさと走り出す。声は続けた。
“本部の司令室とは反対側にガスの解毒剤が保管されている。それを“F・F”メンバーに配るんだ。本部も司令室以外にはガスが満ちている。お前ら三人が行くしかないからな。じゃあ、気をつけるんだぞ”
この時、彼女は急に立ち止まった。すぐ後ろの“Tarsier”が慌てて未来をよける。
未来は気がついたのだ。
この廊下が封鎖された意味に。
姉が兄に向けた怒りの意味に。
兄の、妙に静かな声の意味に。
「・・・・・・・お兄ちゃん?・・・・・・聞こえてるんじゃないの・・・・・・・?」
哲のため息が聞こえた。
“・・・・・・・やっぱりばれたか”
未来は無意識に天井に問いかけた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんはどうするの・・・・・・?」
“・・・・・・・ある可能性を信じる”
「・・・・・・・まさか、防護服が・・・・・・・?」
明るい声が返ってくる。
“ご名答。ここって不親切だからさ、三つまでしかなかったって訳よ。・・・・・・・まったく、せめて四つは欲しかったな”
「・・・・・・・」
未来は驚愕した顔で何か言いたげに口をパクパク動かしていた。しかし、声が出てきていない。
「・・・・・・・哲、もう一発ぶん殴ってやるから」
詩織が監視カメラを睨む。
哲が笑う。
彼は笑い終わると、再び静かな声で未来に言う。
“未来、親父と同じ、月並みな言葉だけど、言っとくぞ。・・・・・・・・“生き残れ””
プツッ
未来の“耳”が壊れた音がした。