第四十話 聞こえるか・・・・・・・?
「こっの、馬っ鹿野郎!!!!」
久しぶりに腹の底から怒鳴った。未来が衝撃を受けたようにびくっと動いた。
「未来、今それを言う必要あったのか!?お前なら、気付いてたんじゃないのか!?」
「・・・・・・・え・・・・・・・?」
次の一言を言う前に、コンピューターのモニターが変わり、“South-Pore”の顔が現れた。
“もう遅い、哲君”
「・・・・・・南、さん・・・・・・・?」
未来はまだ状況を理解できていないようだ。
「・・・・・・やっぱ、あんたもスパイだったんですね、南機長」
“残念だな、哲君、スパイが一人とは限らない”
「残念だな。俺はあんたを気に入ってたのに」
南は、人を見下すような笑みを浮かべた後、後ろを振り返った。
“石井哲・・・・・・・“Loki”を確認した。作戦を実行する”
そして再び僕を見る。
“ここからゆっくり見物させてもらおう。君の死を、ね”
「残念ですねぇ。カメラの故障みたいですよ。・・・・・・ついでに盗聴器もね。また後で会いましょう」
南の嘲笑が画面に映る前に、この部屋中に仕掛けられた盗聴器、監視カメラが破壊された。
未来、姉貴、“Odin”が動いてくれたのだ。が、そんなことにかまってる暇はなかった。僕は皆にくるりと向き直った。
「南はさっきの毒ガスで俺たちを殺すつもりだ。防護服がそこに3着と、奥に2着ある。そいつを着て脱出する。姉貴と未来と“Tarsier”はこの箱ん中のを着てさっさとここから出ろ。俺と“Odin”は奥のやつを着てすぐに行く。分かったな?時間がねぇ、急げ!」
みんな僕の指令通りに動いてくれた。未来が何か言いたそうな目をしたが、首を振って黙らせる。
「後で聞く、とにかく急げ!」
僕と“Odin”が防護服を取 り に 行 く 振 り を す る 中、3人の足音がバタバタと遠ざかっていった。
耳を澄ましていた“Odin”が、ほっとため息をつく。
「・・・・・・・行ったな、哲」
「悪い、巻き込んじまって・・・・・・・・」
彼はひょいっと肩をすくめた。
「気にすんな。それに、まだ、可能性が消えたわけじゃねぇ」
僕はため息をつきながら微笑んで、モニターを覗き込んだ。
モニターに、三つの点が映っている。その点が、この施設の見取り図の上を滑らかに移動していく。
その三つが“ある点”を通り過ぎた後、ひとつのキーを叩き、この場所を封鎖した。
そして、点が立ち止まったあたりの監視カメラを指導させ、唯一残った“糞ガキ”の“耳”を取り出した。
「未来、聞こえるか・・・・・・・?」
自分でも驚くほど、静かな声だった。