第三話 まだ早い
「・・・・・む・・・・・?」
真っ暗だ。目を閉じてるのか、開けているのか、自分でも全く分からない。目の前に手をかざしてみても、全く見えない。
“・・・・ここはどこだ?・・・・何も見えない・・・まさか・・・・”
だんだんと焦りが生れる。まさか、まさか、目が・・・・?
その時、視界の隅で何かが光った。それと同時に記憶も戻ってくる。
“そうか、シャトルの中で・・・・”
僕は手探りで携帯を見つけ、画面を開いた。あまりのまぶしさに反射的に目を瞑ってしまった。
「・・・・お兄ちゃん?」
未来も目を覚ましたようだ。目がくらんでいて、顔が見えなかったが、声は相当不機嫌だ。
「・・・・な?ついてこない方がよかったろ?」
「・・・・まぁね」
未来はしぶしぶ同意した。
“それにしても、親父は何を言っていたんだろう?”
携帯の画面は相変わらず明るすぎたが、目を細めれば何とか見ることが出来る。
「・・・なんだぁ??」
「どうしたの?」
「莫大な大きさのデータが・・・・これは!?」
「え・・・・?」
未来が覗き込もうとしたので、僕は画面を切った。
「ちょっと。見せてよ」
「お前には・・・・まだ早いよ」
「え゛・・・・まさかアダルト!?」
「・・・・まぁ、そんなところ・・・・・って違う!!ほれ」
僕はクスクス笑いながら画面を開いてやった。
「・・・・何これ・・・・? シャトル?」
画面には僕らの乗っているシャトルの設計図が映し出されていた。出発前に見たような茶々な物ではなく、本当に事細かに示された―――たとえば扉のパスワードとか―――僕はニンマリ笑って間接を2,3鳴らした。
「さてさて・・・・やってみようかね・・・・」
「ちょっと、まさか・・・・」
「まずは明かりをつけようか」
携帯のキーを2、3押すと、いとも簡単に明かりがついた。そしてバッグからノートパソコンを取り出す。
「やっぱパソコンは明るいところでやらんとね!」
「・・・・またハッキング??」
「・・・・そう・・・・これで最後かも知れねぇけど」
「え?」
僕は無言でキーを叩き続けた。
我ながら上出来だった。携帯の画面をあの一瞬でシャトルの設計図に移し変えたんだから。ルナ・ドームの設計図は、まだ、未来には早い。
シャトルの制御コンピューターの中を覗いて、今の状況を確認しながら、ちょっとした計画を立てた。大方成功しそうなんだけれども・・・・・
もう一度シャトルの設計図を確認する。ついでに乗客名簿も。
「おい、未来」
「終ったの?」
「いやいや、これから始まるんだ」
「え?」
「出るぞ」
僕はノートパソコンを閉じてバッグに放り込み、立ち上がった。未来は唖然として僕を見上げている。
「せっかく忍び込んだのに!?」
「もう出発したんだ。とっくの昔に大気圏外。放り出されはしないさ。」
「まぁ、そうだけど・・・・」
僕はこの部屋に入ったときに壊した通風孔に、再び入った。さっき、警備員がここを見つけてたらアウトだったな・・・・
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「電気、消していこうよ」
「・・・・どうでもいいこと気にするんだな」
電気を消すと、辺りは再び闇に包まれた。