第三十八話 ・・・・・・畜生
気付いたときにはもう遅かった。
我が妹―――腹立たしいほど僕に似ていて、抜け目がないクソガキ―――の“耳”が、僕にも仕組まれていることを迂闊にも忘れていたのだ。
未来は薄目で僕を見ながら、右の人差し指で唇を叩いている。
「・・・・・・・“Odin”、聞こえた?」
「・・・・・・・いや。未来・・・・・・ちゃん?君は?」
「“ちゃん”要らない。・・・・・・・私は聞こえた」
目がスッと開く。
「・・・・・・・・なんかさ、“お父さんからもらう前から設計図を持っていた”というような意味の言葉が聞こえたんだけど」
僕は黙って視線を受け止めた。未来は続ける。
「・・・・・・・・多分、ルナ・ドームの設計図ってのは、史上最大の国家機密だよね?絶対に知られちゃいけないもの・・・・・・・お父さんは、仕事柄、持っていてもおかしくないけど、24時間監視されていた・・・・・・・」
“・・・・・・・何でお前がそれを知ってるんだよ!”
声に出せるわけもなく、心の中で叫んでみる。
「・・・・・・・・でも、その監視状態になかったお兄ちゃんが自分で持ってるって事は・・・・・・・」
“Tarsier”が目を見開いてこっちを見る。
「お前が自分で手に入れた・・・・・・・・!?」
ちらりと姉貴を見ると、““耳”を外してなかったあんたが悪い”というような目をしていた。反射的に“Odin”を見やると、素知らぬ顔で鼻の頭をかいている。両方とも、僕を助ける気は全くないらしい。
「・・・・・・・畜生・・・・・・・・」
未来がスッと近づいてきて、僕の袖を掴み、目を覗き込んだ。
「・・・・・・・そうなんでしょ?お兄ちゃん」
ついつい目をそらしてしまう。その行為が肯定することと同じだとは分かっているのだが。
「・・・・・・・だったらどうなんだ?」
「決まってるでしょ?」
マズイ。
―――ルナ・ドーム本部司令室
葵、翔、隼を引き連れた武装警官の一人が、背を向けて偉そうに立っている軍人に敬礼した。
「“向日葵”“Wildcat”と・・・・・・・・」
彼はちらりと隼を振り返る。
「あ、加藤 守と・・・・・・・・」
軍人がそれを遮る。
「羽下 隼君、無駄なことはやめ給え」
隼は目を細めた。
「・・・・・・・あんた、やっぱり・・・・・・・」
声を聞いて葵も顔を上げる。軍人はクルリとこちらを向いた。
「・・・・・・・南さん・・・・・・?」
「意外そうだな、“向日葵”君」
それは紛れもなく、南機長だった。ただ、彼の静かな微笑みは含みのある笑みに変わり、穏やかな視線は人を見下すものに変わっている。
そう、変わったのはそれだけだ。
だが、それだけで、彼が裏切り者であることが十二分に分かる。
葵は眩暈がした。
“私たちは・・・・・・・・違う。私は、この人たちの掌の上で踊らされていた・・・・・・・?”
南はにやりと笑い、再び背を向けた。