第三十五話 ただの鎌かけよ
正田は暗い所に、一人で座っていた。
円形の部屋の真ん中に。目はじっと閉じられ、何かを祈っているかのような表情だ。
「・・・・・・・」
かすかな振動を感じ、彼はスイッチを押した。
パッと正面の壁がディスプレイに変わった。
““F.F”主要メンバー3人を拘束。残りは石井 哲、未来等のみ。二人の姿をルナ・ドームで確認済み”
「ほう・・・・・・分かっていると思うが、殺すな。どうあっても、石井 哲や橘 洋介に吐かせなきゃならない」
彼の顔がいっそう残忍になった。
「“Loki”の正体を・・・・・・・!!」
ふっと画面が暗くなる。
その残像が消える前に、彼は別の振動も感じた。
テレビ電話だ。
画面に映った顔を見て、正田は薄笑いを浮かべた。
相手は、アメリカ大統領。彼も、同じように笑った。
―――ルナ・ドーム“奥の方”の更に奥
この辺りになると、飾り付ける必要も感じなくなった政府が、適当にごちゃごちゃした建物を作っただけになっている。
「・・・・・・・ひっどぉ・・・・・・・まるで小学生の工作ね」
未来の意見はかなり手厳しかったが、別に外れてもいなかった。
「この辺になるとさ、別に変な輩も入ってこないし、しっかり作る必要もないんだよ」
“Odin”はそういって、近くの家の壁を蹴飛ばした。彼が一歩下がったとたん、メキメキという音がして、家が崩れてしまった。
「・・・・・・・ひでぇな、ホントに・・・・・・・・で、どの辺りなんだ?」
「あぁ、もう少し先に、何か地下の空間への入り口があるらしいんだけど・・・・・・」
「へぇ・・・・・・・形状は?」
「お兄ちゃん、設計図!」
“なるほど!”と思い、バッグに手を突っ込んだ瞬間、ふと思った。
「・・・・・・・なんで、未来がそのことを知ってんだ?」
睨みつけたが、済ました顔をされただけだった。
「ただの鎌かけよ」
僕はしぶしぶパソコンを取り出し、立ち上げた。
表示された設計図を見て、“Odin”が口笛を吹いた。
「すっげぇ!おい、これなら、俺がここに来ることなかったんじゃねぇの??」
「しょうがねぇだろ」
自分の声が相当暗かった。
「親父が勝手に渡してきたんだから」
程なく、入り口は見つかった。隠す気があったのかもしれないが、途中でその必要がないことに気付き、中途半端に投げ出した、といった感じだ。
地下へ続く階段を下りていくとき、誰も口をきかなかった。
センサーが俺たちを感知して、だんだんと明かりがともり、通り過ぎると消えていく。
長い廊下を、光とともに歩いているように思えた。
最後に、僕たちはスタジオのような部屋にたどり着いた。
「・・・・・・・ここは・・・・・・?」
ガラス張りの向こう側に、さらにガラス張りの四角い部屋がある。こちらについた光で分かるのはそれだけだ。
“・・・・・・・久しぶりね、人が来るのは”
スピーカー越しに、懐かしい声が聞こえてきた。