第三十四話 今度こそ、無理だな
僕はなせる限りを尽くして皮肉っぽく言葉を発した。
「ほんじゃあ、まぁ、そろそろ案内してもらえますかね、“Odin”様様?」
橘は目を細めた。
「おいおい、こっちは大変だったんだぜ?もうちっと“敬意”ってのを示せねぇのか?」
「えぇ?これ以上??」
「・・・・・・・分かった分かった」
「・・・・・・・お兄ちゃん、いったい何を探してるの?ここに軍の機密でもあんの?」
僕は肩をすくめた。
「恐らくあるな。だけど、そいつは“あの”三人の役目。きっとそろそろ見つかる頃だ」
「哲、こっちだ」
橘がもう歩き始めている。僕は歩きながら続けた。
「俺の探しもんは、 俺 か 、 未 来 か し か 探 さ な い も の・・・・・・・」
未来はぴんと来ないようだ。
「姉貴だよ」
後ろで息を呑む音が聞こえた。
―――本部のある廊下
「まったく、何で斉藤が・・・・・・?」
葵が頭をぶんぶん振った。隼は躊躇いがちに呟いた。
「どうでもいいが、やっぱり脱出したほうがいいと思うな・・・・・・」
「だめ」
葵はきつく彼を睨む。
「““South-Pore”を助けなきゃ!”ね。はいはい・・・・・・」
翔もあきらめたように呟いた。
斉藤が自由ということは、南が危険な立場にいることを、火を見るより明らかにしている。
葵は彼の救出を頑なに主張した。後の二人がぼそぼそと、“もう死んでるかもしれない”と言っても、聞く耳を持たず、“じゃあ、私一人で行くから!”と言い放った。
二人もそんなことをさせるわけにもいかず、ついてきている、というわけだ。
「でさ、隼」
「んあ??」
彼はいかにもめんどくさそうに返事をした。
「ちょっと!・・・・・・・ル ナ ・ ド ー ム の 本 当 の 目 的 って?」
隼は言葉を選ぶ間をとった後、重々しく告げた。
「・・・・・・・居住者を殺すのに、核ミサイルは必要ない」
翔の声が掠れた。
「か、核ミサイル??」
「そもそも、“中の人間を殺す”だけなら、ただ、空気の漏れる穴を作るだけでいい」
隼は無表情だった。
「せいぜい使っても細菌兵器だ。というか、それがベストかな。施設も壊れねぇし、“後始末”がしやすい」
葵はごくりと唾を飲んだ。
「でも、核兵器だ。しかも、大きさを考えると・・・・・・・」
「動くな!!!」
今度こそ、無理だな。
隼はぐるりと周りを見渡した。
10人の武装警官じゃあ、さすがにこの娘でも勝てない。
彼はそっと肩をすくめ、ゆっくり手を挙げた。
「おとなしくすんのが無難だよ、お二人さん」
体を硬くしていた二人は隼を見てあきらめたようにため息をつき、彼に倣った。
「あ、そうそう。大きさの話だったね?」
彼は手錠をかけられても、冷静だった。
「ありゃあ、地球の半分はぶっ飛ばせる大きさだよ」
今のところ、この意味を理解しているのは隼一人だ。
少なくとも、今、この場の中では・・・・・・・・・