第三十二話 だろうね
“じゃあ、単刀直入に言おう”
「・・・・・・ああ、頼むぜ」
“俺は誤解が解きたいだけだ”
“Loki”は飄々と言い放った。二人は狐につままれたような顔をしている。
「「・・・・・・・は?」」
その反応を見たからか、“Loki”は説明を始めた。
“別にあんたらが正田側にいても、こっち側―――ま、言うなればキツネ側、だな―――にいても、俺たちが失敗すれば死ぬ。だから、仲間になってもらいたいわけじゃない”
「・・・・・・キツネとタヌキの化かしあいで俺たちが死ぬのか?」
“死ぬね。世界の半分以上が死ぬ。下手すりゃ全滅だ”
筒井が眉をひそめた。
「・・・・・・・物騒だな・・・・・・・何が起ころうとしている?」
“・・・・・・・お偉いさんの壮大な計画さ。ま、とにかく、俺は濡れ衣で恨まれたまま死ぬのは嫌だからさ、わざわざここまで来たわけよ”
羽下がパソコンの画面をにらみつけた。
「理解できねぇな」
“だろうね”
“Loki”はせせら笑った。“あんたには理解できないだろうさ”とでも言うように。
羽下はむっとした様だが、筒井は別のことに気をとられているようだった。
「ひとつ、教えてくれないか?」
“一つじゃなくてもいいぜ。ただ、答えられねぇかもしれねぇけど”
「・・・・・・詩織の行方を知っているのか・・・・・・・?」
“・・・・・・知っている、とは思う。ただ、確証はない”
「どこだ?」
“・・・・・・ルナ・ドーム”
「何!?」
羽下は怒りを忘れるほど驚いていた。
“・・・・・・繰り返すが、確証はない。ただ、そこしか考えられねぇってだけだ”
筒井は驚くほどの冷静さだった。
「・・・・・・正田か?」
“それは間違いない”
「詩織は生きてるのか?」
“恐らく。殺すつもりなら、最初に拉致った時にそうしてる”
「・・・・・・詩織を殺さない意味は何だ?」
“・・・・・・それが分からねぇんだ”
筒井は低い声でうなり、考え込むように視線を落とした。
「餌として使うつもりじゃないのか?」
羽下がポツリと言った。筒井がゆっくりと身を起こす。
「そのために・・・・・・・・?」
“相当な大物を狙ってるってわけだ”
二人は頷いた。
「まずは詩織の居場所を突き止められて・・・・・・」
「ルナ・ドームに潜入できる奴じゃないと・・・・・・」
「!」
筒井は画面に食らいつくようにパソコンをつかんだ。
「おい!哲の居場所は!?分かるか!?」
羽下が怪訝な顔をした。
「哲・・・・・・・?石井 哲か・・・・・・・?」
「そうだ!おい!」
一瞬の沈黙の後、茫然とした声が聞こえてきた。
“・・・・・・・ルナ・ドームだ・・・・・・”
二人の間の理解が読めない羽下が怒鳴った。
「ルナ・ドームにあの悪ガキが!?おい、どういうことだ!?」
「弟なんだ・・・・・・・」
「弟!?お前の!?」
“正確には、違う・・・・・・石井 詩織の・・・・・・弟だ・・・・・・”
羽下は目を丸くして、髪の毛をかきむしる相棒を見やった。
正田が狙った獲物が判明した。