第三十一話 さぁ、知らないな
「どういうことだ!?」
“詩織サンは気づいたんだ。俺が、正田の企みを暴くために誘導しようとしてることに”
筒井と羽下は不安そうに顔を見合わせた。
“だから、俺とコンタクトを取ろうとした”
「ちょ、ちょ、ちょっと待て」
筒井が頭の周りの蠅を払うような動作をした。
「正体もわからん奴にコンタクトって・・・・・どうやって?」
“なめてもらっちゃ困るよ、筒井サン”
“Loki”は面白そうに言った。
“俺と話したけりゃ、ネット上で一声俺を呼べばいい”
「はぁ?」
“「“Loki”、来てくれ」とでも言えば、1,2週間以内に行ってやるよ”
「それが罠だとしても、か?」
羽下がせせら笑ったが、“Loki”の声は、それをさらに嘲った。
“あんたらや“Ragnarok”が俺を捕まえるとしたら・・・・・・”
“俺が自首したときだけだ”
あまりの自信に二人は声も出せなかった。
が、それが真実であることにも、気付いていた。
“それで、だ。俺は手に入れた情報を彼女に伝えた。ルナ・ドームが殺人兵器である事、虐殺が目前まで迫っている事、等等な”
羽下がしかめっ面で言った。
「・・・・・・・・・是非聞きたいんだが・・・・・・・」
“ん?”
「なぜお前はそんな行動をとる?」
“さぁな”
“Loki”が肩をすくめる気配まで伝わってきた。
「面倒なだけだろう?そんなお節介焼いても」
“俺は、正田の野郎が気に喰わねぇ。というか、あいつをこのままにしたら危ないと思ったから、動いたんだ”
筒井がさらに突っ込んだ。
「それは、お前が捕まるという意味か?」
“違うね。さっきも言ったろ?俺が捕まるのは自首したときだけだって”
その言葉の一句一句に多少の嘲りが込められていた。
「じゃあ、どういう・・・・・・」
“ 地 球 上 の 全 生 物 が 危 な い って言ってんだよ”
「「・・・・・・・・???」」
“一部のお偉いさんを除いてな・・・・・・・・!!”
二人は彼の憎々しげな声を聞き、自らの耳の届く範囲以外で何かが動いていることを知った。
「・・・・・・・その情報を知ってすぐ、詩織が襲われた、というわけか」
“一週間後だ。恐らく、誰かに伝えたんだろう。用心しろといっておいたのに・・・・・・”
筒井は無表情で尋ねた。
「その、“誰か”も知ってるんじゃないのか??」
“・・・・・・・・さぁ、知らないな”
「・・・・・・・・お得意の独り占めかい?」
羽下が笑った。あきれているというか、馬鹿にしているというか、そんな笑い方だった。
“・・・・・・・確証がないことは話さないポリシーなんだ”
「あぁそうですか・・・・・・・・で?俺たちに何をさせたいんだ??」
“ずいぶん単刀直入だな、“Logi””
「“駒”が考え出したら混乱が起こる。だろ?“Loki”さんよ」
““駒”?”
「そうだ。俺たちはお前に取っちゃ将棋の駒だろ?」
“俺は将棋もチェスも嫌いだ”
“Loki”は笑っていた。
“見てるだけだったらどっちでもいいけどな”
羽下は気付いた。
“Loki”は競技者ではない。
究極の傍観者であり、かつ、気まぐれな手出しもする・・・・・・・神の視点で世界を見ているのだ。
全ては彼の思うままに・・・・・・