第三十話 なんとも思っちゃいねぇ!!
「誰だ・・・・・・!?」
“声”が答えた。
““Loki”だ”
「・・・・・・・本物か!?」
羽下の問いかけの後、鼻を鳴らす音まで聞こえてきた。
“疑うのか?まぁ、どっちにしろ信用しないんだから気にするなよ”
「・・・・・・・何のようだ?」
“そう、怒るなよ“Fenrir”。俺はただ、あの正田総理を信用するなって言いに来ただけなんだから”
筒井は仇を見るような目でコンピュータを睨みつけた。
「・・・・・・・だからと言って、お前の側につくと思ったのか?」
「おい、ツツ・・・・・・・」
“筒井サン、あんたの婚約者の件、俺は絡んでないぜ?”
筒井は銃を構えてコンピュータを撃ち抜こうとした。羽下がその手を押さえる。すると案外簡単にとめることが出来た。
「・・・・・・・ツツ、何の話だ?」
「・・・・・・・詩織は同僚だった。一緒に“Loki”を追っていた」
険しかった彼の顔が、さらに迫力を増した。
「だから襲われた。心も体も滅茶苦茶にされて、警察が居場所を見つけ出すまで、一ヶ月も縛られたまま放置されていた」
「婚約者って・・・・・・・・」
「そうなる予定だったんだ。拉致された夜に、な」
羽下はちょっと呻き、さらに聞いた。
「死んだ、のか?」
「・・・・・・・行方不明だ」
おそらく、自殺だ。筒井は心の中で、そう付け足した。彼は、“それ”を見て、詩織が何をされたかを知った。とても生きてはいけないだろう・・・・・・
「どうして“Loki”が絡んでくるんだ?」
「その部屋においてあったパソコンのモニターに、“Lokiを追った罰だ。次はない”と出ていた」
そして、そのパソコンの中に、暴行の様子を一部始終収めた映像が・・・・・・
“全く、とんだ言いがかりだぜ!!”
“声”が怒ったように叫んだ。
“俺は警察なんかなんとも思っちゃいねぇ!!女刑事を襲って捜査を止めさせる!?そんな非道なことが出来るかっ!!!”
「・・・・・・・貴様・・・・・・・」
筒井は再び銃を構えかけた。
“そんなことやるのは、“Ragnarok”ぐらいだ!”
「ラグナロク?」
羽下が驚いた顔で顔を上げた。筒井は一拍遅れてその名前を聞いた場所を思い出す。
「・・・・・・・あの、総理直下の極秘プロジェクトのチームか・・・・・・??」
“そうか、表 向 き に は そんな説明されてるんだ?”
今度は羽下が憤っていた。
「“Loki”、貴様・・・・・・・」
““Logi”そう怒るなよ。あ れ が 暗 殺 チ ー ム だって知ってるのがそんなに意外か?”
「総理大臣直下の・・・・・・・暗殺チーム??」
“そう、おそらく、科学者の石井夫妻は彼らに殺られた。今はその二人の子供と俺のことを追ってるはず”
「何!?」
筒井は何か言いかけたが、羽下が遮った。
「何故お前はそんなに詳しい??」
“Loki”は悪戯を仕掛けた子供のように嬉しそうだった。
““Loki”だから、じゃ不十分?”
「あまりに真実を知りすぎているな・・・・・・・・」
“筒井サン、目を覚ましてください”
“Loki”の声は打って変わって真面目だった。
“多分、詩織サンは知りすぎたんです。だから、“あいつら”に襲われた”
「どういうことだ・・・・・・・?」
“俺が馬鹿だった・・・・・・・・”
二人は一人の人間を見るような目で機械に見入っていた。