第二十九話 馬鹿な真似はよせ
―――地球
正田は官邸に悠々と入っていった。秘書がその後ろから追いかけてくる。
「総理、お電話です」
「電話?誰だ?」
「羽下 兼です」
「・・・・・・・ほう」
正田は携帯電話を受け取った。
「何かつかめたのかね?」
電話の向こうの相手の言葉を聴き、正田の顔色が変わった。
「・・・・・・・それは・・・・・・・君等の宣戦布告になるのかね?日本に対する・・・・・・・・」
秘書が顔をしかめ、耳を澄ましたが、会話は聞き取れない。
「その両者に違いはあるのか!?・・・・・・・・よし、いいだろう。君等が平和に暮らせる時間は終った、と言うわけだ」
正田が電話を切った(秘書の目には一方的に切ったように見えた)。
「総理??」
と、彼は突然携帯電話を壁に投げつけ、破壊した。
「どうされたのですか!?」
「なんでもない」
正田のこめかみに青筋が立っているのを見逃す秘書ではなかった。が、それを指摘するほど愚かでもなかった。
「羽下、筒井の二人を逮捕しろ。国家反逆罪だ」
「そんな罪状は・・・・・・」
「ないのは分かっている!!だから、とにかく何か被せて警察に追わせろ!」
「・・・・・・・・はい」
「今日はもう、貴様に用はない。早く帰れ」
「しかし・・・・・・・・」
「失せろと言ったんだ!!!」
秘書は抵抗をあきらめた。
「では、失礼します・・・・・・・・」
正田は彼の厳かな礼には目もくれず、さっさと奥の部屋に入っていった。
“プルルルルル・・・・・・・・・プルルルルル・・・・・・・はい”
正田は即座に命じた。
“羽下だ。優先度は石井 哲、未来と同等に”
“かしこまりました”
“それで、まだつかまらんのかね?“悪戯坊主”は”
“・・・・・・・・どこかで死んでるんじゃないかとも疑ってるんですが・・・・・・”
正田は溜息をついた。組織が発足してから、今までこんなことはなかった。まさか、まだ10代のガキにてこずるとは・・・・・・・
“それで、“Loki”は?”
“・・・・・・やつのアジトを突き止めました”
“ほう!”
正田はガッツポーズをしかけたが、男の暗い口調に違和感を覚えた。
“喜べませんよ、こちらは”
“どういうことだね?”
男は苦々しさを前面に出して言った。
“そこにあったコンピュータのモニター全てに、“ダメー発見おめでとう”と・・・・・・・!”
“・・・・・・・・そうか・・・・・・・・”
“しかし、複数の人間の髪の毛を採取しましたので、そこから・・・・・・・・”
“楽観的観望は、成功したときに聞かせてくれ”
正田は苦々しい気持ちで電話を切った。
「・・・・・・・役立たずめ!!」
―――本部 約1時間前
「接続完了。兼、いつでも出来るぜ?」
「おう」
すでに人払いを済ました彼らは、昔の悪戯を再現するような心持でコンピュータの電源を入れた。筒井は羽下に聞いた。
「で、何を調べるんだ?」
「決まってるだろ?あの正田サマサマが、何をたくらんでるのか、だよ」
「知らねぇ方が良いと思うんだが」
羽下は昔の相棒を振り返り、ニヤッと笑った。
「だからこそ、知りたくなんだろ?何か国家機密を握れるかもな・・・・・・・・」
彼が画面に戻った瞬間、後ろでガチャッと音がした。
「・・・・・・・何のまねだ?」
筒井警部補は銃を構え、兼の頭に突きつけていた。
「言ったろ?俺は堅気だと・・・・・・・・馬鹿な真似はよせ。今なら、俺が昔のよしみで見逃してやる」
兼は背後で銃を構える親友に指を一本立てた。中指・・・・・・・じゃなく人差し指を。
「一つ、教えて欲しいんだが」
「残念だが、俺は知らない」
筒井は首を振ったが、兼は指を振って見せた。
「お前のことだよ、筒井。何があった?」
「・・・・・・・・お前には関係がない・・・・・・!!」
突然、“声”がした。
“珍しいこともあるもんだ!!”
その“声”はコンピュータから聞こえてきた。が、まるで誰かがその後ろでしゃべっているような、極めて人間らしい声だった。
““Logi”と“Fenrir”が口論してるなんて、な!”
自分のコードネームが知られている。困惑した二人は、身動きすら出来なかった。