第二話 やられたぜ
―――地球
「お前たち・・・・!生き残るんだぞ・・・・!」
プツッ
彼は一階に下りた。
「・・・・・」
「哲たち、何処にいました?」
彼の妻が手を拭きながらきいてきた。
「・・・・シャトルの中だ」
「あら、やっぱり」
「何!?知っていたのか!?」
彼女は肩をすくめた。
「あんなに行きたがってたから・・・・あの子ならやりかねないし」
石井氏はソファに沈み込んだ。
彼の頭の中で、“健康診断”の後の“お偉いさん”の言葉が反響した。
“君たちは国家機密を担うことになる。君たちがその機密を漏らせば、混乱、無秩序、戦いをもたらす”
「・・・・・帰ってきてくれますよ」
妻の笑顔が目の前にあった。
「・・・・そうだな・・・・」
彼は無理に笑って見せ、ソファから立ち上がった。そして自室に向かう。
“機密を漏らしたものは・・・・抹殺されるだろう。もちろん、それを知ったものも。君らの行動は監視される。24時間、ずっとだ”
どういうことか、彼にはわかっていた。体に盗聴装置や、超極小の監視カメラを植えつけられたのだ。自分の開発したものを。・・・・彼だけが知っているやり方で破壊したが。電話をかける寸前に。
“我ながら、勘がよかったな”
彼はニヤッと笑った。
石井氏は部屋に入り、ドアを閉めた。
「誰か、いるんだろう?」
闇の中で、黒光りしているものを握っているはずだ。・・・・この部屋のどこかで
「・・・・さすがですね、石井さん」
正面から声がした。目の前にいるらしい。
「一つ、頼みがある。妻には全く何も知らせていないんだ・・・・」
バス!ドサ!
階下で音がした。
「・・・・残念ながら命令は、“この家にいるもの全員の抹殺”です」
「・・・・・この・・・」バシュ!
サイレンサーつきの拳銃からの弾丸が、石井氏のこめかみを貫いた。真横からの弾丸だった。
・・・・・ドサ。
彼の体が重々しい音を立てて床に転がった。
刺客は彼の正面に置かれたスピーカーを自分のポケットにしまい、石井氏の手に拳銃を握らせた。
その仲間がその部屋に銃を投げ込む。・・・・石井夫人を撃った拳銃を。そして、ガス栓をひらき、自動発火装置を―――石井氏の開発したものを仕掛け、スッと闇に溶けるように消えた。
3人目の刺客は、とうに石井宅を離れていた。石井氏のコンピューターを持ってスポーツカーを走らせている。適当な場所に止まって中身を調べる。
「・・・・おっと・・・・これだな・・・?」
キーを2、3叩くと、一つのメールアドレスが表示された。
「さてと・・・・」
助手席のノートパソコンを開き、表示されているアドレスを打ち込む。
「完了!」
エンターキーを押すと、まず老人の顔写真が表示され、そのデータがその下に順々に表示される。
「何!?」
顔写真のすぐ下にこう書かれていた。
“正田 賢治 現職内閣総理大臣”
男は荒々しく舌打ちすると、携帯電話を取り出した。
“プルルルル ガチャ。・・・・どうした?”
「やられたぜ。石井がルナ・ドームと輸送シャトルのデータを送った奴、ただもんじゃない」
“・・・・だれか分かったのかね?”
「どうやったか知らんが、あ ん た の 名前や経歴を使ってアドレスを取得している!」
“何!?”
「なんて奴だ! ご本人を探すなら・・・・二、三日は軽くかかるな」
“電話とほぼ同じタイミングだったはずだ。その相手は?”
「同一人物だ!それ以上は何も・・・」
“電話の内容は!?”
「あのおっさん、電話の前に盗聴器をぶち壊しやがった。何も分からん!」
“八方塞か・・・・・一刻も早く見つけ出して始末せねば。君も早く本部に戻ってきてくれ。政府のコンピューターを総動員して調べるぞ”
電話が切れると、男は携帯を助手席に投げつけた。そして車のキーを回し、アクセルを踏み込んだ。鋭くUターンした後、彼は猛スピードで“本部”に向かった。
ふと目をあげると、空を何かが横切る。
「フン・・・・最終便か・・・・」
男は、なにやら不吉な笑みを浮かべ、さらにアクセルを踏み込んだ。