第二十八話 延べ、十二人だな
「・・・・・・・・!!」
斎藤は葵の腕をさらに捻った。
「何処だ!?」
葵は何とか声を絞り出した。
「・・・・・・・“Good night”!!」
瞬く間に光が消える。
「ナッ・・・・・!?」
その驚きによって出来た一瞬の隙が、命取りだった。
葵は斎藤の腕を振り解き、まず肘で鳩尾に一発。さらにその隙を広げる。
くわえて右の拳を振り向き様に顎に。
仕上げは、右の上段蹴りを全く同じ箇所にかました。
どのタイミングでかは不明だが、彼は床に倒れる前に気を失っていた。
全ては暗闇の中で行われた。
電気が復旧された時。残りの四人は何かする暇もなく、両手を挙げさせられた。
「黙って言うこと聞かないと、斎藤の頭を吹っ飛ばすわよ!!」
と叫んだ少女によって。
「・・・・・・・葵に助けられたな、俺たち」
翔がコンピューターのコードで役人たちを縛りながら言った。
「あぁ。あの“仕掛け”はいつやったんだ?」
隼も斎藤を事の他きつく縛りながら不思議そうに首を傾げる。葵は溜息をついた。
「私じゃない。哲がやったの」
男二人は顔を見合わせる。葵はまたしても溜息をついた。手はすばやく動き、必要以上にきつい結び目が出来上がっていた。
「やっぱ、踊ってるだけなのかな。掌の上で」
「おそらく、な」
翔は諦めたように笑った。隼は顔をしかめ、立ち上がった。
五体のコード巻きの人間が完成していた。
―――“奥の方”
「さぁ、役者は揃った」
「役者?」
「まずは“向日葵”それに“South-Pore”。裏切り者の“ザイン”に、優秀なハッカー“Wildcat”。そして“Thor ”・・・・・・・」
「“Thor ”?あの、一時期有名になった、ウィルスばら撒いた奴でしょ?そんな奴が・・・・・?」
「黙って聞けよ!・・・・・・ここに居る“Odin”に、地球にいらっしゃる正田こと“Ragnarok”、羽下こと“Logi”」
「隼ならここに居るでしょうに」
「大馬鹿だよ、お前は」
僕が下げた頭の数センチ上を未来の手が通過した。
「地球にあいつの兄貴がいんだよ!えっと・・・・・何処まで行ったっけ?」
「隼の兄貴まで!!!」
「ああ、そうそう。+筒井警部補が“Fenrir”。それに、ど こ か に い る で あ ろ う と 予 測 さ れ る “Loki”と・・・・・・・」
未来は再び出てきた知らない名前は聞き流したが、“Loki”には反応した。
「“Loki”、か。お兄ちゃん正体知ってんでしょ?実は」
「妹が知りたがってるよ。言えばいいじゃないか」
眼鏡の男が口を挟む。
「おい、“Tarsier”(メガネザル)。黙っていたほうが得策だぞ」
飄々としていた男がたじろぐ。
「何故俺を・・・・・・??」
「さぁ?俺が知ってんのはそれだけじゃねぇぜ?“Heimdall”・・・・・・!!」
僕は未来を振り向いた。
僕と彼女がはたとにらみ合う。
「延べ、十二人だな」
“Odin”がふふんと鼻を鳴らした。