第二十七話 撃てるさ
―――メイン・コンピューター室
「・・・・・・あの野郎、何のつもりだ・・・・・・?」
隼は首をかしげた。
「さぁ?」
「・・・・・・哲の考えはよくわかんないわ」
翔は葵の言葉に頷いた。
「・・・・・・よくわかんない行動とるくせに・・・・・・・・」
「最後には正しいことになってる」
「え?」
隼が取り残されていた。後の二人は彼に説明しながら作業を開始した。
「いつもああいう感じなのよ、あの馬鹿」
「学校とかでいざこざが起きたりすんじゃん?教師と生徒とか、生徒同士とかで」
「はぁ」
隼も手を動かし始めた。
「皆がいきり立ってさ、今にも爆発しそうなときに、あいつは」
「我関せずって感じでどっちつかずってか、何事もないかのように動いたり、まるで知らない振りをしたりね」
「なんか想像つくな」
「だろ?“何だあれ?”って感じになるだろ?」
隼はくすくす笑った。
「確かに」
「だけどね、いろんな奴をちょっとした言葉とかで操って、自分の思ったとおりに動かしてんの。勿論、影のそのまた奥の影でね」
「そういうことに関しちゃ、あいつ、天才だね」
翔がウィンクした。葵はにこっと笑い、肩をすくめて見せた。
「それでよ。いろいろ問題を複雑にして、こんがらがせたと思ったら、同じやり方でそれを解いちゃう訳」
「んで、後から皆に話を聞くと、あいつの存在が浮かび上がって来る」
翔は左の手のひらを右拳で打った。ぱちんと小気味のよい音がした。そして明るい声で続けた。
「メイン・コンピューターを“洗脳”したぜ!」
「ナルホド・・・・・・・って早い!」
葵も立ち上がった。
「制御システム、制圧!」
「そっちもかい!」
二人は同時に隼を振り返った。
「「隼は?」」
隼は溜息をついた。
「ふぅ・・・・・・連中の命令系統への割り込みと、殺人兵器の保管場所の検索と、それから・・・・・・・」
翔が口笛を鳴らした。葵も感心して目をぱちくりさせた。
「すごいわね、まだあるの?」
「・・・・・・・ル ナ ・ ド ー ム の 本 当 の 目 的 を 」
「分かったのか!?」
その時、ドアが蹴破られた。
「動くな!!!」
三人が振り向くと、五人の役人が(驚くべきことに、武装警察ではなかった)拳銃を構えて立っていた。
「・・・・・・・あちゃあ、捕まっちゃったか・・・・・・」
隼が忌々しげに呟いた。翔が両手を挙げて見せたが、薄笑いを浮かべていた。
「・・・・・・あんたら、撃てんのか?俺たちの後ろには、大事な大事な・・・・・・・げ!?!?」
一番後ろに立っていた男が、なんの躊躇いもなく、翔と葵の間のコンピューターの画面の打ち抜いた。三人は考えるゆとりもなく、床に伏せた。
「撃てるさ」
どこかで聞いたことのある声が嘲り、そこにある画面を片っ端から打ち抜いた。その銃声と頭の上に降りかかる破片が、三人の頭を中から外から打ち叩いた。
男はずかずかと部屋の中に踏み込んできた。
「斎藤さん!!」
「心配には及ばん、どうせこいつら丸腰だ」
「し、しかし・・・・・・」
「・・・・・・・斎藤・・・・・?」
目の前に影がかかり、葵は顔を上げた。その男の顔を見て、彼女は飛びのく。
「何であんたが・・・・・・!?」
「これはこれは、またお会いできて光栄ですよ、“向日葵”さん?」
斎藤の笑い方は、常人のそれではなかった。青ざめた葵は何かないかと後ろのほうを手で探った。
「・・・・・・・おいおい、あんまりなめんなよ?」
彼は自分が撃った葵の左肩を蹴った。
「キャ!!!」
彼女は仰向けに倒れた。そこで斎藤はさらにその肩を踏みにじった。
「・・・・・あ゛・・・・・・あ゛ぁ・・・・・・・!!!」
「葵!」
翔が立ち上がった。斎藤は彼に目をやった。
「余計な真似、すんなよ?こいつを殺されたくなかったらな」
斎藤の足はまだ動いていた。
「止めろよ!」
「・・・・・・・お前、俺に命令できる立場だと思ってんのか?」
斎藤はさらに力を込めた。葵の悲鳴が上がる。
「わ、分かった、止めてくれ!」
彼はようやく足をどけた。が、葵が息を継ぐ暇もなく、その髪を引っ張って立たせた。
「痛!!!!」
「テメェ!」
斎藤は、二人の声には耳を貸さず、葵の腕を捻りあげた。
「さて、もう一人も、出てきてもらおうか」
葵のこめかみに銃口が当てられたのを見て、隼は無念そうに立ち上がった。彼はいつの間にか斎藤の背後に回っていた。斎藤は気配を感じて振り返った。
「な!?」
それでも、隼を見たときの斎藤の反応は大きすぎた。
「何故だ!?」
「「「は?」」」
斎藤は葵の腕をさらに捻りあげた。
「痛!!!!やめ・・・・・・・」
「石井 哲はどこだ!?!?!?」
葵は腕が折れるような―――実際折れそうだったが―――痛みの中、一つ、僅かな可能性が残っていることに気付いた。
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