第二十五話 怖い怖い
「更生の見込みのない、凶悪犯・・・・・・・?」
「そう。明確な判断基準はないらしいけど、そう 判 断 さ れ た 奴 が こ こ に 送 ら れ て い る 」
「誰に?」
「決まってるだろ」
僕は“安全地帯”に向かって歩き始めた。
「正田さ」
「ナルホドねぇ」
未来は立ち止まり、空を見上げていた。造られた空がその上に広がっている。ちょっと振り返ると、未来は頭を振りながらついてきた。
「作り物の空なんて、ね」
「ハハ・・・・・・・」
「ねぇ、ちょっと」
「あん?」
「何処に向かってるの??」
僕はくるりと振り返った。口元がニヤついているのが分かった。
「“安全地帯”だよ、妹よ」
「あんぜんちたいぃ??」
「そう」
不信感たっぷりの視線がこちらに注がれた。
「まさかとは思いますけど・・・・・・・」
「どうした?」
「“奥の方”に向かってるとか?」
僕はパパンと手を鳴らした。
「ご名答!!」
「このヤロー・・・・・・・!」
「大丈夫だって。そろそろ“落ち着いてる頃”だから」
「はぁ?」
「いきゃ分かると思うよ」
未来が腕を組んで僕を睨んだ。
「私の身の安全は?」
「自分の身は自分で守れ。他人に頼るんじゃねぇ」
さらに視線が険しくなった。
「それで私についてくるように言ったとか?」
「そうそう。お前なら滅多な事じゃ死なないから」
「シネ!!!!」
「おう、それそれ。怖い怖い」
身構えた未来を前に、僕はスタコラ逃げた。
“奥の方”と“それ以外”にはっきりした区別はないが、どうやら俺たちは す で に そ こ に 入 り 込 ん で い た ようだ。
“声”が聞こえてきたのは、破壊の跡が生々しい、廃屋の横を通ったときだった。
「客人が来るとは、珍しいな」
僕らがバッと背中合わせになって身構えると、何人かの笑い声が響いた。
「ハハ!しかもやる気満タンときた!」
その声は上のほうから聞こえてきた。上を向くと廃屋の一番てっぺんに若い男が腰掛けていた。
「おうおう、しかも一人はかわいい女の子か!」
「・・・・・・・かわいいって」
「そんなの何処にも・・・・・・・・イテ!!」
思いっきり足を蹴られた。
「歓迎してやろうぜ、皆で」
彼が指を鳴らすと、廃屋の影という影からごつい男がのっそりと出てきた。皆が皆意地汚い笑みを浮かべている。
「へへへへ、かわいがってやるからな」
「あらあら、か弱い女の子に何人がかりなんだか」
吹き出した僕の脚がさらに蹴られた。
「イテテ・・・・・・・・」
「そっちの坊やには用がないんだけどな」
「坊やって俺のこと?」
「そうだよぉ、逃げたかったら逃げても良いでちゅよ。ハハ!!」
ニヤニヤ笑ってる連中を見渡しても、何の感情もわいてこなかった。
「ところがこっちには用があるんだよ」
「はぁ?」
「橘 洋介って奴に会いに来たんだが」
「橘?」
「別に知らない振りしても構わねぇけど、哲が会いにきたって伝えて欲しいな。それで分かるはずだから」
「・・・・・・・チ、“哲”か。ホントに来るとはな」
若い男が飛び降りてきた。