第二十四話 不気味だな
「・・・・・・・しかし、こうも簡単にここまで来れるとは・・・・・・・」
南さんを管制室に送り、残りの五人がメイン・コンピュータ室へと向かった。翔がこうこぼしたとき、僕たちはすでに部屋の扉の前にいた。
「・・・・・・・逆に、不気味だな」
隼はそういって両側の廊下を窺った。
「大丈夫ッしょ。“向こう”の会話も別に疑ったりしてないし」
未来はイヤホンを手で押さえ、ちょっと頷いて見せた。
まもなく、扉のロックは解除された。
「・・・・・・皆、提案なんだけど」
4人は扉に一歩踏み出したところで止まった。
「正面から行くのは・・・・・3人で十分だと思うんだけど・・・・・・」
「・・・・・・・で?お前は何をするんだ?」
「搦め手で攻めようかと・・・・・・」
「搦め手?」
首を傾げた隼に、未来が手を振って見せた。
「隼くん、気にしないほうが良いわよ。この人、秘密主義の上、適当に誤魔化すのが得意だから」
「ま、そういうわけだ。未来、お前はついて来い」
「・・・・・・・まぁ、いいや」
未来がフゥと溜息をついて僕の横に来た。残りの三人はちょっと怪しんでいるように見えたが、おとなしくコンピュータ室に入っていった。
その扉が閉まった直後、未来が横目で僕を見ているのが分かった。
「で?」
「え?」
「なんかあんでしょ?」
「秘密主義だって知ってるだろ?」
「・・・・・・・はいはい、黙ってついていけばいいんでしょ?」
「そうそう。分かってんなら聞くなよな」
未来のとび蹴りを軽くかわし、僕は歩き始めた。
本部の“出入り口”は二つある。一つは僕たちが使った、宇宙空間とつながっている場所、もう一つは居住区と連結している。
僕と未来はそこを通って居住区に出た。
「ふーん・・・・・・・・」
政府の説明とは明らかに違う、お粗末な建物が辺りに広がっていた。壁にはひび、屋根には穴があき、おまけに土台からして曲がっている。
おそらく、災害時の仮設住宅のほうがまだしっかりとした家だ。
しかも、歩いているのはしわだらけのお年寄りばかりである。
その中の一人が僕らを見てそばによって来た。
「おやぁ?珍しいねぇ、お若い方を見るなんて・・・・・・」
「おじいちゃん、お偉いさんが言ってたのとずいぶん違うね、ここは」
未来の問いかけに老人は目を伏せた。
「まだここはいい方だ・・・・・・・お嬢さん、あんまり奥の方には行かないほうがいい」
「え?どうして?」
話すたびに、老人の目は暗くなってゆく。
「“ルナ・ドーム”に法律はない・・・・・・・・」
「法律がない?」
「特に奥の方は・・・・・・・完全に無法地帯になっている・・・・・・お嬢さんも、ただで帰っては・・・・・・・・・」
老人はそれからさらにわけの分からないことを呟きながら去っていった。
「・・・・・・・どういうこと?」
「ルナ・ドームにいるのは、“経済的弱者”が“大半”だってのはお前も知ってるな」
「うん」
「じゃあ、残りは何だと思う?」
「え・・・・・・・?どっかの成金でしょ?」
僕は未来の前で指をふって見せた。
「残念、違うんだ」
「へ?」
「思ったとおり、気をつけないといけないなぁ」
「だから何に!?」
僕が振り返ると、未来が2、3歩後ずさった。
「残りは・・・・・・・・更生の見込みがない、凶悪犯たちなのさ」