第二十二話 そんな暇はないよ
「さて、と。分かった?」
「ああ。信用してない奴でも連れてく意味が分かった」
「ん?」
未来がふっと溜息をついた。
「もしばれたら、揃ってお陀仏ってわけだし」
翔がぱちんと指を鳴らした。
「もう一つある。裏切れる危険を顧みてる余裕がないんだよ」
「と、言うわけだ。怪我人だからって、寝ていられるとは思わないことだ」
怪訝な顔をしたのは隼だけだった。あとは“ハイハイ分かりましたよ”とでも言ってるような顔をしていた。
扉のほうから声がした。
「気付いてんなら、お見舞いの言葉をかけてくれても良いんじゃない?」
「悪いけど、そろそろ“始まる”時間だ。そんな暇はないよ」
そこには葵が立っていた。腕を組んで壁に寄りかかっている。そして左耳のイヤホンからコードが延びていた。
「全く、どいつもこいつも盗聴しやがって、プライバシーも糞もないな」
「でもさ、お兄ちゃんそれ分かっててくっつけたままにしてたんでしょ?」
「結構便利だぜ?こういうやつを持ってると」
僕は胸ポケットのある機械のボタンを押した。
「ウワァ!!!!!」
葵がすごい声を出してイヤホンをはずした。
「この馬鹿!!!!!」
僕と未来は大笑いしていたが、残りは“わけが分からない”と僕らを見ていた。
「・・・・・・・おい、何やったんだ?」
「親父が作った、盗聴器を破壊する装置があってな、それは簡単に言うと、盗聴器に許容以上の電流を流して、ショートさせるってモンなんだけど、それは中にある制御システムに間違った命令を下させてるんだ」
「・・・・・・・」
「まぁ、とにかく、それを改良すると、相 手 が 聞 こ え る も の を コ ン ト ロ ー ル で き る ってわけだ。不快な音を聞かしたり、話してる内容とは別物の言葉を伝えたり、音量を馬鹿みたいに上げるとかな」
葵は左耳をさすり、険悪な顔で僕を睨みつけていた。
「いつか、コロス」
「まぁ、せいぜい頑張れよ」
「・・・・・・・」
沈黙を破ったのは、自分のコンピュータの画面を見ていた翔だった。
「哲、動き出した」
「場所は?」
「操縦席から出口に向かっている。5分もすりゃ出るな」
画面では、シャトルの図面の上を丸い点が動いていた。
「誰と一緒だ?」
「待て待て・・・・・・・」
彼がキーボードを叩くと、画面に映像が映し出された。
「・・・・・・・誰か分かるか?」
「・・・・・・日向さん」
「え!?」
画面の中で、斎藤と一緒に歩いているのは、紛れもなく葵の両親だった。
「未来、用心深いお前が・・・・・・・」
「くっつけてないわけないでしょ」
「ですよね」
未来はポケットから機械を取り出し、僕のパソコンに繋げた。
「音量は?」
「75あれば十分」
パソコンを通じて音声が聞こえてきた。
“それで、お体のほうは大丈夫なのですか?”
“あぁ、少し、頭痛がするだけだ”
「・・・・・・未来、何したんだ?」
「へ?」
「“薬”か“手刀”か“絞め技”か」
「・・・・・・・手荒なことはやってない」
「じゃ、薬か」
未来はさも映像が興味深そうに画面を覗き込んだが、葵の不信感たっぷりの視線は外れなかった。画面の中では斎藤が演技たっぷりに溜息をついた。
“お嬢さんが無事だと良いんですが・・・・・・・”
“あぁ。まさか、あの二人が“反乱分子”とは・・・・・・・”
“・・・・・・これは内部情報なんですが・・・・・・”
“え?”
“実は、彼らの父親は・・・・・・そういったもののリーダーではないかと疑われていたのです”
「ナルホドねぇ・・・・・・・」
翔が呟いた。
「上手いねぇ、斉藤君も」
「“お嬢さんが無事だといいのですけど・・・・・・”こんなんなったのは誰のせいよ!」
葵はそう叫び、襟をガバッと掴んで開き、撃たれた場所を見せた。肩に巻かれた包帯からは血が滲んでる。
「葵ちゃん、結構大胆ねぇ・・・・・・」
未来の言葉ではっと我に返った葵は、頬を赤くしながら服を戻した。彼女は、“男の前でそれはないだろ”という感じの格好になっていた。
「な、何よ!?」
葵が思いっきり睨みつけてきた。
「え?」
「何見てんの!?」
「いや、俺は別に良いけどさ、それで物凄くペース乱される奴もいるんだから・・・・・・」
「誰が?」
ちょいちょいと指差した方向には、耳を赤くして画面をじっと見ている翔がいた。必死でカーソルを操作しようとしているが、右手が握っているのは未来が繋げた盗聴装置だった。