第二十一話 足掻くんだよ
―――ルナ・ドーム内
「・・・・・・最終便、到着しました」
司令官はにやりと笑った。
「情報によると、奴らは本部に“奇襲”を仕掛けてくるらしい」
「罠の中に、ですね?」。
「そうだ。どうせなら、徹底的に叩く。しっかりと内部まで侵攻させるんだ」
敬礼し合い、彼らはそれぞれの持ち場に戻った。
「情報は武器になるんだ。反乱分子どもめ・・・・!」
彼らにとって、これは“戦争”ではない。始 め る 前 に 、勝 利 を 手 に し て い る のだから。
―――シャトルの集会所
「連絡は行き渡りましたかね?」
「うむ。しかし、何故“作戦中止”ではなく、“作戦変更、指示を待て”と送ったのかね?」
南以外は“そんなこともわからねぇのか!?”と心の中で叫んだ。一番耐えたのは僕みたいだ。
「・・・・・・・そう言えば、過激な馬鹿が勝手に動いて死ぬなんてことも起こらないからですよ」
集会所のドアをノックする音が響いた。扉のところにいた男がにやりと笑った。さっき、“知っている者”の目をしていた一人だ。
「その、過激な馬鹿が参上しましたよ?」
「・・・・・・へぇ・・・・・?」
「俺は羽下 隼。あ ん た ら の お 手 伝 い を し よ う と 思 っ て ね」
僕は彼を疑わずにいられなかった。
「・・・・・・あ ん た の 、当 初 の 計 画は?」
おかしなことに、僕のこの発言は、その場にいる全員の視線を集めることになった。
「・・・・・・なんだよ?」
未来が呆れたように言った。
「・・・・・・いやぁ、突っ込んだ発言をするなぁ、と思って」
「だってさ、明らかにこの人“ドーム”の目的を最初っから知ってたし、いきなり“お手伝い”とくるし、絶対なんかあるだろ。それに・・・・・・」
「それに?」
とっておきの情報だ。まだ隠しておいたほうが良い。
「俺の勘がこいつは危ないって言ってる」
未来が鼻を鳴らした。
「・・・・・・何だよ?」
「別に」
羽下は、僕が隠すことにした“とっておき”に勘付いた様だ。僕を疑わしさと警戒の入り混じった目で見ている。
「・・・・・・何を知っている?」
「兄貴のこと、だ」
彼は目をスッと逸らした。
「・・・・・・あいつとは関係ねぇ」
「ホウ!」
「俺は興味があるだけだ。ヒーロー気取った輩がどう戦うのか」
「・・・・・・・戦うんじゃねぇ」
翔が不機嫌に言った。
「足掻くんだよ」
僕らはニヤリとした。笑っていなきゃやってられなかった。
「で、羽下君は計画に・・・・・・?」
「参加してもらいましょうかね」
未来と翔の肩がカクッと下がった。
「・・・・・・お兄ちゃん、気ぃ変わんの早くない?」
「・・・・・・さっきまでの警戒モードは何処に??」
「馬鹿、あれは“信用するかどうか”の問題で、“参加させるかどうか”はまた別の話だ」
「はぁ!?信用してなくても参加させんの!?」
「お前がそうだぞ、未来」
「程度が違うでしょ!?」
「おう、お前のほうが信用ならねぇ」
「・・・・・・・」
未来はこっちをギロリと睨み、黙った。僕は構わないことにした。
「さて、じゃあ、計画を説明しようか」
「・・・・・・・いいのか?」
「何が?」
「俺を信用してないんだろ?」
「たいした問題じゃない」
「・・・・・・・・?」
「ここにいる全員が、何かしら隠してやがるからな」
隼以外、誰一人僕と目をあわせようとしなかった。