第二十話 乗りかかった船だ
アナウンスが響いた。
“まもなく、ルナ・ドームに到着します。念のため、座席に戻り、シートベルトを着用してください”
「・・・・・・石井君、何処に・・・・・」
「その必要はありません。ここに残っていても大丈夫」
翔にも目で合図して残らせた。
皆がざわめき、自分の座席もどろうと部屋から出て行った。残ったのは、機長と、僕と翔。それに、部屋の隅の“誰か”だけだった。
もっとも、僕にはそれが誰なのか分かっていたが。
「おい、さっさと顔を見せろ。さっきのアナウンス、俺はだませねぇぞ」
「そんなに怒んなくてもいいじゃん」
暗がりから出てきた顔を見て、翔が仰天した。
「未来ちゃん!?」
未来は翔にウィンクした。
「“ちゃん”は余計だけどね、愛の勇者さん♪」
「“愛の勇者”?」
翔の目が“???”という感じだったので、教えてやった。
「こいつがここにいるって事は、俺の体のどこかに発信機をつけたって事。発信機をつけたって事は当然、“おまけ”も、な!」
「あら、何のことかしら?」
この糞ガキが拳の届かない範囲ギリギリにいるのに腹が立つ。
「おまけって?」
「盗聴器」
「・・・・・・ナルホド」
「しかも、だ。こいつは人を、なんつうか・・・・・ミツバチ扱いしてんだ!」
「・・・・・・ミツバチ?」
「人の体に“花粉”をつけてばら撒くんだ」
「まぁ、そこまで分かってんなら」
未来がさっと近寄ってきた。
「私が全部知っちゃったことも・・・・・・」
「分かってるから怒ってんだよ!」
「そう。で、何で私に隠したの?」
「・・・・・・まだ、早いと・・・・・・」
「何言ってんのよ!両親が死んだのよ!?真っ先に知らせるべきでしょ!?」
「・・・・・・そうだな」
適当に受け答えしながら、さっきまでの会話を順番に思い出していた。
「それに、ルナ・ドームの・・・・・・」
「・・・・・あぁ・・・・・・」
ギャンギャンわめく妹を横目で見ながら、冷静に考えてみた。
“やっぱり、そうだ・・・・・・”
妹に一つの疑惑が芽生えた。
ふと気付くと、翔が未来をなだめていた。未来がいつの間にか泣いていた。その涙を見て、“会 話 を 聞 い た だ け で は 、 両 親 が 死 ん だ と は 分 か ら な い ”ことを指摘する気はなくなった。
「・・・・・・お兄ちゃんは・・・・・・泣きもしないの・・・・・・?」
「・・・・・・親父は・・・・・・」
僕はまたしても途中で気が変わった。この言葉は未来に言うべきじゃない。
「・・・・・・なによ?」
「・・・・・・きっと覚悟の上だったんだ」
「・・・・・・」
そう、こんなこと言うべきじゃない。
“ 自 分 で 死 を 招 い た ん だ ”
なんて・・・・・・
「・・・・・・南さん、計画に僕らを参加させてくださいますよね?」
「・・・・・・あぁ」
「・・・・・・翔、お前も参加するんだろ?」
「・・・・・・乗りかかった船だ」
「・・・・・・私もよ」
「・・・・・・よし、このメンバーなら、何とかなるかもしれません」
「どうするんだ?」
「当初の計画では、メンバーが本部を襲い、コンピュータシステムを乗っ取る、もしくは完全に破壊して時間を稼ぎ、他の幾人かが先発隊の人たちを救出、ドームにあるシャトルで地球に帰還。ッてとこですよね?」
南さんが苦笑交じりに答ええた。
「幾分、批判的感情が混ざっているかもしれないが、まぁ、そんなところだ」
「・・・・・・敵は、全 て を 知 っ て い る。つまり、こ の 動 き に 対 す る 準備は整っているわけです」
「・・・・・・そうか!」
僕が 新 し い 計画を話している間に、微かな振動を起こしながら、シャトルがドームに到着した。