第十九話 幸運だったな
―――シャトル
「“Loki”に聞いた、か・・・・・・・」
大男があごをさすりながら呟いた。翔はその口調に含まれた疑わしさを敏感に感じ取り、彼をにらみつけた。機長は翔をなだめるような身振りをしながら尋ねた。
「どういう風に教えてきたのかね?」
「・・・・・・・ただ一言、“向日葵は日向葵だ”って・・・・・・」
周りを取り巻く連中の一人が笑った。
「ハン!お前、それを信じたのか?」
「“Loki”の言葉を信じたから、あんたらはここにいるんだろ?」
笑った男はちょっと身をすくめた。目の前の大男が今度は腕組をして翔を見下げた。
「そういうお前は?」
「・・・・・・・?」
「“Loki”を信じてい・・・・・・」
「・・・・・あ、そういうことか」
翔はかすかに呟いただけだったが、男はぴたっと口を閉じた。
「“Straw”のことだろ?あれは、“Loki”の考えじゃない。知らなかったのか?」
ざわめいた部屋の真ん中で、機長が拳をぎゅっと握り締めたのが見えた。
翔の言葉は続く。
「親愛なる“South-Pore”のお考えなのさ」
「手の内は政府にばれ、向こうは準備万端整っている」
「しかも、政府への“情報提供者”は彼の部下・・・・・・・」
少しずつ、みんなの目が一点に集まっていった。その“一点”の男はまっすぐ前を向き、その視線を受け止めた。
「おい、おっさん・・・・・・ホントか?」
この静まり返った部屋で、機長のすぐ傍に立っている僕が、彼らの視線を集めるのは至極簡単だった。
パチン!
指を鳴らせばよかったのだ。音と同時に皆僕のほうを見た。
「おい、翔。ちょっとそれは、お前にとって“困ったこと”を隠してるようだぜ?」
「何?」
響きと強さは100点満点だ。“自分は何を言われているのか分からない”。そういっているように聞こえる。でも、目はこう言っている。
“お前、正気か!?”
僕は構わず続けた。
「・・・・・・ここに居る方々、“ルナ・ドーム”が何のための施設か、ご存知ですか?」
男たちが互いに言い合った。
「実験施設だろ?」
「人体実験をやろうなんて、一線を越えてるよ」
黙っている何人かは知っているようだ。じとっとした視線を送ってくる。
「・・・・・それすらも、真実ではありません・・・・・・・」
――――――――――――――――
僕が話し終えたとき、部屋は静まっていた。
「・・・・・・だから、計画が無茶だろうと、やるしかないんです」
翔は僕を睨みつけた。
「・・・・・・厳重警戒の中、“Loki”の力も借りず、ルナ・ドームのコンピュータを乗っ取るってか?」
「プラス、先にドームに住み着いた人の救出」
「・・・・・・正気か?ヒーロー願望にとりつかれてないか?」
「大丈夫だ」
機長の確信に満ちた声がした。
「私の考えでは、“Loki”はここに居る」
皆がざわめき、お互いの表情を窺った。
「・・・・・何故ですか?」
「“Loki”がこの計画を知らぬはずも、黙ってみているはずもない。それに・・・・・」
彼は翔をあごで指した。
「いざとなれば、彼がいる」
「幸運だったな、来ていない筈の“Wildcat”が来てくれているんだから・・・・・」
機長は満足そうに頷いた。




