第一話 ・・・まさか!?
何で忍び込んだんだ?そう思ったろ?
なぁに、簡単な話さ。月に行ってみたかったんだ。
自己紹介しようか?僕の名前は石井 哲。年は17。高校生なんだけど、バイトのほうに熱が入ってる。コンピューターがあれば、出席日数をどうにかするなんて簡単だからさ。
本当はきちんとした手段で月に行くつもりだったんだ。家族みんなが行きたがってた。・・・・親父を除いて。こう言うんだ。
「地球が一番だ」
全く嫌になる。親父自身が“ルナドーム”開発チームのメンバーなのに。
結局、頑固な親父の説得は諦めてこうして忍び込んだ。幼馴染がこの便で発つから、見送りにいくといって家を出て、ね。まぁ、無事に乗れたんだが・・・・
「お兄ちゃん、ホントにここ、大丈夫なの??」
一つ年下の妹がついてきてしまった。名前は未来。
「・・・・設計上、ここは客席と直接つながってるから」
「真っ暗で怖いんだけど」
「だからついて来るなって言ったのに・・・」
「しょうがないじゃん、ついて行きたかったんだから。ねぇ、ライトかなんかもってないの?」
僕は懐中電灯を取り出し、自分の顔を下から照らした。
「ギャ!!」ドゴ!!
「イテッ!何すんだ、馬鹿!」
「やめてよ!!私ホラー系に弱いんだから!」
「蹴りかますこたぁねぇだろ!!」
ガタ!!
何処からか音がして、僕らは口をつぐんでさっと身を寄せ合った。
しかし、何事も無く、静寂が続く。不意に笑いがこみ上げてきた。未来も同じだったらしく、二人で必死に声を出さないように笑っていた。
やはり、誰かが調べに来た。それでも笑いが止まらない。上のほうからの光が、端の方を照らし、そこから入念に調べ始めた。流石に危機感が芽生え、笑いがおさまった。今にもライトが未来の体を照らしそうになった、その時―――
「おい、そろそろ発射するそうだ。席に着かないと・・・・」
「ん・・・・おう」
ライトがパチッと音を立てて消える。僕らはホッと息をついた。遠くでアナウンスが聞こえる。
“―――ただいまより、乗務員がシートベルトの確認を・・・・・”
ヴヴヴ!ヴヴヴ!しばらくしてケータイが鳴った。皆席についた頃だからいいかと思い、電話に出た。画面に親父の顔が映る。
「おっす、父さん」
「え?電話?」
未来が画面を覗き込んだ。
「・・・・何処にいるんだ・・・?・・・まさか!?」
「ダイジョーブダイジョーブ。ちゃんと帰ってくっから」
「・・・・・!何も知らないんだ・・・・お前は・・・・!」
「え?」
親父はちょっと躊躇うかのような間をおいた。しかし、思い切って息を吸い込んだ。
「ルナ・ドームの本当の目的は・・・・」バシュウ!!ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
轟音がとどろき、親父の言葉がさえぎられた。僕と未来はものすごい力で床に押し付けられた。
“発射した・・・・・!”
親父がなにやら叫んでいるが、何一つ聞き取れない。音量を最大にして耳に押し付けると、これだけ聞こえた。
「お前たち・・・・!・・・・生き残るんだぞ・・・・・・!」プツッ
しかし、限界だった。下からなだれ込む轟音と、上からのしかかるようなG。僕と未来の気を失わせるには、十分だった。