第十八話 まぁ、落ち着けよ
「ところで正田さん」
男が怪訝そうに入り口を見た。
「先ほど出て行った奴、どこかで見たような気がするんですが・・・・・」
「羽下君のことかね?」
彼は飛び上がった。
「羽下ぁ!?羽下 兼ですか!?」
男のものすごい剣幕に気圧されて、正田はたじたじと下がった。
「あ、ああ。・・・・・・まさか・・・・・・」
「あのハッカー野郎が何でここに!?」
「・・・・・ある人物を追っていてね。彼の力が・・・・・」
「どうせなら“Loki”の力を借りればよかったのにね!あいつが一流だとしたら羽下は三流以下ですよ」
「・・・・・結果的に、その“Loki”を追っているのだが・・・・・・」
男は吹き出した。
「あの“幽霊の影”を羽下が!?ハッハッハ!!」
彼の笑いはちょっと不機嫌な声でさえぎられた。
「おい、筒井警部補。俺が三流以下なら、あんたはもっと下だろ?」
羽下が戸口に寄りかかって“筒井警部補”を睨みつけていた。筒井は鼻で笑った。
「俺は“捜査する側”だ。別にハッキングの腕はいらない」
「フン、昔はあんたも・・・・・・」
筒井は右の握りこぶしをそっと持ち上げた。
「言うな。今じゃ俺は堅気だ」
「雑魚が堅気になっていくんだな」
羽下はその拳をポンと殴った。
「・・・・・・一概には言えんがね」
筒井はそっと呟いた。何も聞こえなかった正田は筒井に聞いた。
「で、筒井くん、羽下を捕まえるのかね?」
「こいつを捕まえると、私も仕事を追われてしまいます」
羽下がにやりと笑った。先程のいやらしい笑みではなく、仲間同士で悪巧みをしてるかのような笑みだった。
「・・・・・・そうか」
「おい、それより、筒井。お前、パソコン持ってないか?」
「パソコン?何でまた?」
「ここのパソコン、ネットワークに接続されたのは“Loki”に壊されて、無事だったのは20年前の代物で、どうにもならん」
「お前のは?」
「こんな信用できない連中に囲まれた中に持ってこれるか!」
正田の顔に血が上り、筒井は快活に笑った。
「確かに」
「筒井くん!?」
「まぁ、落ち着けよ、大臣様」
「安月給なんだから、壊すなよ?」
「大丈夫、政府が保証してくれっから」
正田は深く息を吐き、その部屋から出て行った。
「沈黙は了承のサイン、ですよね?」
「・・・・・・いいだろう」
彼は部屋の外の、誰もいない通路で呟いた。
「どうせ生き残れはしないのだから・・・・・・」
そして携帯電話を取り出した。
“トゥルルルル・・・・・・・ハイ”
「どうだ?」
“45分でドームに着陸します。順調ですよ”
「よし」
“全て・・・・・・予想通り・・・・・・”
正田には確信があった。