第十六話 まぁ、そうだな
本来、“ハッカー”というのは、褒め言葉だ。コンピューターに詳しいとか、技術があるとか、そんなような意味だ。辞書によっては“天才的”なんて表現もある。
しかし、コンピュータ・システムを破壊する側(“クラッカー”)にも、同じぐらいの、もしくはそれ以上の技術が求められた。それで、“クラッカー”=“ハッカー”の様な認識が生れ、今の意味になったのだ。
今、僕の目の前でサングラスをとった、“Wildcat”・・・・・いや、僕 の ク ラ ス メ ー ト 三浦 翔は正真正銘本来の意味の“ハッカー”だ。
「なんでお前がここに!?」
「お前こそ!」
「知り合いかね?」
「・・・・・・一応」
僕の個人的意見を言えば、“面倒くさい奴”だ。まぁ、かなり仲が良いが。
「おいおい、“一応”とは何だ!?」
「言葉のままだ」
「・・・・・・それより、“Wildcat”」
機長がやんわりと会話に割り込んできた。
「君は来ないはずでは?」
翔は肩をすくめた。
「気が変わった、とでも言っておきましょうか。あれ?“向日葵”は一緒じゃないんですか?」
僕と機長がピクリと動いた。
「・・・・・気が変わった・・・・・?」
機長はこう聞いたが、僕は違う言葉に反応していた。が、表に出ないように努力した。
「えぇ。それ以上は話せません」
翔は“ハッカー”であり“クラッカー”になりえる技術を持っている。だが、そうはならない。
彼が僕をまともに見た。
「おい、哲。お前、ルナ・ドームには来ないはずじゃ?」
「えっと・・・・・まぁ、そうだな」
「・・・・・・忍び込んだのか!?」
「えっと・・・・・まぁ、そうだな」
「違法行為だぞ!!だから最近の・・・・・」
翔のお説教が始まった。
彼が“クラッカー”にならない理由だ。糞真面目で、無駄に正義感が強く、法こそ正義だと思っている。
「・・・・・が問題で・・・・・おい、聴いているのか!?」
「・・・・・・いや、全く。お前、そんな話をするためにここに居るんじゃないだろう?」
翔がムッとした顔をしたが、何もいわなかった。機長が再び言った。
「すまないが、少し信じがたいな。あそこまで消極的だった君が・・・・・・・」
「・・・・・・だから気が変わったんです」
「フン」
鼻で笑ってしまった。
「どーせ向日葵を追ってきたんだろ」
「な!?」
どいつもこいつも、ポーカーフェイス出来なさすぎだ。
「やっぱり、か。そうだよなぁ?葵、かわいいしなぁ・・・・・・」
翔が真っ赤になった。
「だ、黙れ!!」
周りの奴らが呟いた。
「葵・・・・・・?」
一瞬赤くなった翔の顔がスッと青ざめた。
かかった。
「・・・・・・知ってたな?“向日葵”の正体」
「・・・・・・・」
「お前、最初に聞いたな?“向日葵は?”って。そんでもって今の反応でほぼ確定だ」
集会所は静まり返っていた。時々何人かが吸っている煙草の煙が上がるだけだ。
「・・・・・負けだよ。そうさ、俺は向日葵の正体を知って、あいつだけでも助けるためにシャトルに乗ったんだ」
「・・・・・“助ける”だと?」
さっきの大男が怪訝そうに尋ねた。翔が鋭く振り返った。
「あぁ、そうさ!こんなばかげた作戦から、助けにな!」
「・・・・・・」
「あんたらみたいな筋肉馬鹿は知らないかもしれないけど、この作戦は全て政府に漏れている。あだ名も教えてやろうか!?」
「“Straw”だろ、翔」
彼はまたこっちを振り向いた。
「知っていたのか!?」
「おいおい、なめんなよ。技術はお前にだって負けねぇんだ。このくらいは知ってるさ」
大男が考え深げに呟いた。
「・・・・・・“藁”か・・・・・・」
翔が冷笑した。
「アレ?意外と頭の回転速いな」
流石に男の目つきが悪くなった。それで僕が翔を一発平手で殴って言った。
「・・・・・・おい、あんま挑発すんな。それより、なんで葵のことを知ったんだ?」
「いってぇな!!・・・・・・“Loki”に聞いた」
周りがざわめき、機長が考え込んだ。
謎は深まる。