第十三話 宣戦布告だ・・・・・!
―――地球
“21日、郊外の石井さん宅で火災が発生し、男性と女性の遺体が・・・・・・”
アナウンサーが深刻な顔でニュースを読み上げる。誰一人テレビ画面を見ていないのだが、そこに背を向けてたたずむ一人の男が耳を傾けていた。
“遺体は石井夫妻のものと思われ、警察は確認を急いでいます。また、長男の哲さん、長女の未来さんの行方が分からなくなっており、何か事件に巻き込まれたものとして・・・・・”
“チッ・・・・・”
彼は思った。
“ガキどものおかげで“事件”になっちまった・・・・・”
彼は下に目をやった。幾人もの眼鏡の男が、コンピューター画面に向かい、もしくは怒鳴り、もしくは走り回っている。この28時間で収穫はたったの一つだ。しかも、一番初めにつかんだ一つだ。
「・・・・・・」
羽下 兼はうんざりしていた。後5秒もすれば、またあのお偉いさんがやってくる。
「羽下くん!!」
ほうら、きっかり5秒だ。
「手がかりは!?」
健康的な体つきの―――ようは太ってる―――男がせわしなく近づいてきた。ちょっとした時間稼ぎに煙草に火をつけた。
「・・・・・・何度も言ってるでしょう?正田さん」
「“手がかりが見つかったらこちらから連絡する”か?待っていても何も言ってこないではないか!!」
「つまり・・・・?」
彼は安物の煙草で下を指した。忙しそうに走り回る、“部下”たちがそこにいた。
「君が言ってきたのはたったの一つだ!!」
正田現職総理大臣は怒りに膨れ上がらんばかりになっている。
「“メールの受取人は二人いた”。まさか、一日以上費やして得た情報はそれだけとでもいいたいのか!?」
羽下は煙草をくわえたまま、髪の毛をボリボリかいた。それでふっと微笑み、肩をすくませる。
「ま、要約するとそんなとこだね。こっちも真面目に動いてるんだが・・・・・・」
「君の真面目さはよく知っているつもりだがね」
正田は皮肉たっぷりに言い放つと、騒然としている階下に降りていった。
一人の青年が羽下のところに早足で近づいてきた。
「・・・・・どうした?」
「ほんの少し、前進しました!!」
「ほう!」
「二人の受取人のうち、一人の身元が・・・・・!」
「石井 哲に関することならもう知っているぞ」
青年は鼻を殴られたかのようにたじろいだ。羽下の目に浮かんだ、一瞬の期待が過ぎ去った。彼はさも面倒くさそうに青年から目を逸らし、追い払うように手を振った。
「その情報はだいたい27時間前には最新だったんだがね。早く仕事に戻りたまえ」
「いえ・・・・・・でも・・・・・」
「まだあるのかい?」
「もうご存知かと・・・・・・」
「何の話だ!?」
青年はまたしてもたじろぎ、恐る恐る告げた。
「もう一人の・・・・・・なんというか・・・・・影の形がつかめました」
「何!」
羽下は身を乗り出した。しかし、次の一言は、彼らを更なる迷路に叩き込んだだけだった。
「・・・・・・・“Loki”です。あいつがもう一通を受け取りました。」
羽下は目に見えて落胆していた。
一時間後
正田に小言をいわれたとき、ついに羽下が切れた。
「ふざけんな!!!あんな無能どもを使っていたら、いつまでたっても進展はねぇぞ!!!」
「その責任は彼らではなく・・・・・・」
「どれだけ使えねぇか教えてやろうか!?俺が一時間で調べた内容を、あいつらは28時間経ってからようやく伝えてきたんだ!!!」
「その中には・・・・・」
「あぁ、俺の知らなかったこともあった!だが、俺が2時間コンピュータに向かっていれば、もっと情報が集まったはずだ!!」
「・・・・・・貴様が働かないのが悪いんだろうが!!!」
「もともとこっちにはやる気なんてないんでね!!これで失礼させていただきますよ!!」
正田が負けを認めた。
「・・・・・働く条件は?」
「下のパソコン4台と、俺がひとりになれる空間。もちろん、太ったお偉いさんが邪魔しに来ない場所がいい」
正田が憤怒しながらも承諾しかけたとき。先程の青年が異変に気付いた。
“・・・・・?”
フリーズだ。思わず辺りを見回すと、同じように当惑した目をしたものと目が合った。
画面に目を戻すと、いきなり、画面が真っ黒になった。
「何!?」
あちこちで同じような声が上がる。
「何だ?いきなり??」
画面に白い、四つのアルファベットが順番に浮かんだ。まるで引っ掻き傷の様な奇怪な文字が並び始める。
“L”
「どうしたんだ!?」
“o”
「分かりません!!」
“k”
羽下が叫ぶ。
「奴だ!!!」
“i”
「“Loki”の宣戦布告だ・・・・・!」
そこにある、すべてのコンピューターが致命傷を負った。