第十二話 いろいろ、ですよ
一人の警備員が部屋に入ってきた。
「お呼びですか?」
そして、この部屋の状況に目を見張った。
後ろ手に手錠をかけられている機長。出血した肩を抑えた少女と、その傍で何も出来ずにおろおろしている少年。それに偉そうに足を組んでいる副パイロットだ。
「・・・・・・何事ですか?」
「こいつらを監房に連れて行け。麻薬の密輸を企てていた。今も少し“クスリ”が入ってる」
「ハ!」
警備員は僕ら三人を疑わしそうに見渡しながら敬礼した。
「おい、本庄くん」
南機長が警備員に尋ねた。
「稲垣はどうした?」
警備員は葵の傷を具合を見ながら答えた。
「それが・・・・・ちょっと前から姿が見えなくて」
葵と僕の視線が交わり、さっと離れた。
「早く連れて行け」
「・・・・・この娘の傷は治療しても?」
「良いから早くしろ!」
本庄は不快感をあらわにしながらも、僕ら三人を立たせ、連行した。
「・・・・・機長」
「何だね?」
廊下に出てしばらく歩くと、彼が話しかけてきた。
「何事ですか?」
「・・・・・・何も聞くな。斎藤に従っておいたほうがいい」
「でも、一般市民の少女を撃つような男に・・・・・」
「一般市民じゃないぜ?」
僕が口を挟んだ。二人の視線を感じたので、半分おぶっている葵をあごでさした。
「ルナ・ドームのトップのご令嬢様様だ」
「・・・・・ちょっと・・・・・その言い方はやめてよ・・・・・」
その声があまりにも弱弱しかったので驚いた。
「おい、大丈夫か!?」
「なんか・・・・・・ちょっと・・・・・ふらつく・・・・・・」
「医務室は!?」
「もうすぐだ」
本庄が手を貸してくれた。
「・・・・・・ちょっと出血が多かったみたいですが、もう、大丈夫。痛み止めを打っておきました」
医師の言葉にホッと胸をなでおろした。葵はベッドですやすや眠っている。本庄が決まり悪そうに言った。
「・・・・・お二方、悪いんですが・・・・・」
「分かってる。斎藤の命令に従わねばならんのだろう?」
「・・・・・・はい」
僕ら二人は葵を医務室に置いたまま、監房へと“連行”された。手錠ははずされていた。
彼は僕らを閉じ込めると、申し訳なさそうに出て行った。
「・・・・・石井くん、すまない」
「はい?」
「私が無用心だった。斎藤が政府のスパイだったとは・・・・・」
「まぁ、過ぎたことは忘れましょうよ」
「しかし、君をこのような状況に陥れたのは確かだし、向日葵も・・・・・・」
「・・・・・・葵は大丈夫。あれであいつの安全は保障された」
機長が“何を言ってるんだ?”という顔をしたのは分かったが、あえて無視した。
「あんまり、隠す意味なかったなぁ」
僕はバックの中から“本”を取り出した。何処からどう見ても何の変哲もない辞書だ―――開いてみるまでは。
そいつを開けば、もう一つの僕の“手足”が顔を出す。
「パソコンか?」
「ええ。身体検査があると思っていたんですが・・・・・あの警備員さん。ずいぶんとあなたを信用しているようですね」
「ああ、そうだな・・・・・・」
南機長は黙りこくってしまった。自分で言うのもなんだが、キーボードの音が耳障りだった。
「なぁ、君は何をやっているんだ?」
ついに機長が聞いてきた。だいたい20分ぐらいは経ったと思う。ちょうど、僕の作業が終った時だった。
「いろいろ、ですよ」
「何を考えている?脱出するつもりか?」
「・・・・・南さんは、俺がここから出るのに20分以上かかると思っているんですか?」
「私なら一時間かかっても無理だがね」
「・・・・・・」カタ、カタカタ
5秒後
カチャ!
「俺には5秒で十分です」
彼は自分の視線をロックが解除された扉と僕の間を行ったり来たりさせた後、僕を探るように見つめた。
「じゃあ何をやっていた?」
「・・・・・・あなたが思ってる以上に、俺は知っているんです」
僕は誰もいない廊下へ出て行った。