第十一話 言え
「それだけか?」
斎藤が機長に質問した。その、尋問のような口調に、部屋の空気が変わった。
「・・・・・・斎藤?」
「それだけかと聞いているんだ」
葵がそっと後ろに下がった。唇はきつく結ばれ、顔が白くなりつつあった。南機長はただただ唖然として自分の部下を見つめている。
「答えろ」
斎藤は冷たい目をしていた。その視線は機長に注がれている。
「・・・・・・お前・・・・・いったい・・・・」
「質問しているのはこちらだ」
斎藤の手がスムーズに懐に入り、出てきたときには、銃が握られていた。
「答えなければ、彼女を撃つ」
言葉とともに、銃が構えられた。壁に張り付き、蒼白になった葵に向けられている。
「さっき“向日葵”だとか“サウスポー”だとか言っていたな。貴様らのコードネームだろう?」
「・・・・・・・・」
「組織の名前も出せばしゃべるのか?“F・F”。そうだろう?」
「な!?」
南機長が大きな声を上げた。葵はそれすら出来ずに固まっている。勝ち誇った声が響いた。
「貴様らの動きは全て把握済みだ。政府とて馬鹿ではない」
二人が動くことも出来ない中、斎藤は一人で熱くなっていた。もう、機長以外に何も見ていない。
「俺も貴様らと同じ名前がある。向日葵、サウスポー。俺は“ザイン”だ!!」
「ザイン・・・・!?」
「Lokiもずいぶん間抜けだな。俺がどういう奴か、確認もしないでメンバーにいれやがった」
葵が叫んだ。
「じゃあ知ってるんでしょ!?このままじゃ、皆殺されちゃうのよ!?」
彼女の顔に幾分赤みが戻ってきた。斎藤は笑った。
「“皆”、じゃない。政府に取り付く寄生虫どもが消えるだけだ」
背中に氷を入れられたような気がした。
「なんてこと・・・・・・」
彼女は後退さろうとしたが、それ以上は行けなかった。
「で、質問に答えてもらおう。それで話は終わりか?」
南機長は苦々しげに答えた。
「・・・・・・そうだ」
「・・・・・・嘘をつくな!」
斎藤がいきなり叫んだ。
「まだ、“Loki”の正体を話していない!」
「いいえ。あなたが本当にザインだとしたら、あなたの知っている以上の事は・・・・・」
葵はようやく落ち着きを取り戻し、壁から離れて彼に近づいた。
斎藤は冷徹な目で一瞥し、引き金を引いた。
「葵!!!」
彼女は銃声とともに倒れた。僕が駆け寄ると、痛みで顔をゆがめていた。
「葵!?」
「・・・・・・・大、丈夫・・・・・・肩を掠っただけ・・・・・」
「次は脳天をぶちまける。言え」
「・・・・・・サウスポー・・・・・・」
彼女は体を起こそうとしたが、僕がそれを止めた。“掠った”というより、抉られていた。血がどくどくと流れている。
「・・・・・・知らないんだ」
「・・・・・・なに・・・・・・?」
斎藤は銃を無表情で構えた。僕が葵と彼の間に入り込んだが、この距離では何の意味もないかもしれない。
機長は必死だった。
「頼む、信じてくれ!さっきまで、向日葵の正体すら知らなかったんだ・・・・!」
「貴様は?」
葵がぼそぼそと呟いた。
「・・・・・・Lokiの正体・・・・?そんなもの誰も知らないわよ・・・・・」
斎藤はこちらをずっと睨んでいたが、諦めて銃をしまった。
「お前ら三人は監房入りだ」
斎藤は警備員を呼び寄せた。