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第八話 ある日の午前

 ――ジリリリ!!

 いつも通りの音を響かせる目覚まし時計が俺のだらけきった脳細胞を覚醒させる。

 まだ眠たいんだけどな。

 しんどいし。

 昨日はバイトだったのだが、客が遅くに大人数で来たのだ。

 俺は個人経営の居酒屋でバイトしている。

 基本的には一時に閉店なのだが、昨日は12時ごろに団体が来た。

 金曜日だったので、まあ恐らくは吞み足りないとか何とかできたのだろうが、俺としては鬱陶しい限りだ。

 そんなに働きたくないんだよ、俺は。

 まあ長引いた分、報酬は上乗せしてもらえるから良いのだが。

 しかし疲れた。

 もう少し寝ていようか……。


「お兄ちゃん、早く起きないとチューしちゃうよ」


 そう思っていた俺は、もう聞き慣れてしまった猫なで声に睡眠の邪魔をされた。

 気付けば、ベッドの中に潜り込み、俺の顔面に顔を近づける千代君が顔を近づけてきた。

 俺は彼の唇を手で押さえ、押し返した。


「ぶみゃ!?」

「おはよう、千代君」


 朝っぱらから元気が良い。俺は最近毎朝こんなもんだが。

 困ったもんだ。

 まあこの子、中々見た目は可愛らしいので、これが人間の美少女であればよかったんだが、残念ながら天狗系男の娘というレベルの高い存在なものでね。

 私には手出しできんのだよ。

 ……まあ俺の友人には「こんな可愛い子が女の子のはずがない!!」とか良いながらニューハーフ系AVを買いあさくるどうしようもない奴もいるのだけれど。

 そう言う意味では少々マニアックなエロゲをもっているだけの俺なんて、「ふん、奴は四天王の中では最弱!!」とか言われる程度の変態性だ。

 人外娘とか軽いケモナー属性も持っているが、多分リアルに妖怪として出てきたら対処しきれない。

 実際、偏見はないが狐々さんがいつものケモナー姿で迫ってきてもそんなに興奮しないし。

 二次元でも、アメリカのエロ漫画にあるような「車をドラゴンが犯す」なんて展開には只管に苦笑いしか出来なかったよ。

 変態は世界に溢れているんだね。変態ってすごい、俺は改めてそう思った。

 まあそんな馬鹿なことを考えている場合ではない。


「えー、もう2週間も一緒にいるのに、つれないなあ」

「お前に手を出したら、俺は色々終わりだよ」

「そんなのいいじゃんかー」

「……お前、最初のころは一応丁寧語だったのに、見る影もないな」

「えー? ボクそんな細かいこと気にしないもん」

「……いいよ、もう。着替えるから部屋から出ろよ」

「えへへ!! そんなこと言ってー、本当はボクに脱がして欲しいんでしょ?」


 うぜえ。

 まあ、こいつらは俺が着替えようが風呂に入ろうが勝手に入ってくることが多々あるので、言っても仕方ないことは分かっているのだが、一応きちんと言っておく。

 俺は着替えを取り、それを持って別の部屋に着替えに行こうとする。


「わー! 待ってよ、待ってよ!! どうして出て行くの!? お着替え普通に手伝ってあげるから!!」

「ふざけんじゃねえよ! お前の普通は俺の考える普通とは違うんだよ!!」

「えー? ボク変な事なんてしないよ!! ちゃんと、……してあげるよ」

「っておい!! ち○こ掴むな!!」

「いいじゃないかー!! 減るもんじゃないし!! 寧ろ大きくなるし!!」

「だから駄目だって言ってるんだよ!!」


 この淫乱ショタめ!!

 マジ良い加減にしろ!!

 俺は千代君を振り払い、階段を駆け下りた。

 背後から「待ってよー!! もうエッチなことはちょっとしかしないから!!」という声が聞こえてきたが、俺は無視する。

 ちょっとはするんじゃねえか。

 というかあの子は色々際どいんだよ。

 妖怪ということを抜きにしても、男の娘とか。

 しかもアレだけかわいい子が迫ってくるので、俺としては時々やばくなったりするのだ。

 自分がリアルで男の娘に目覚めるなんていう状況は避けたい。

 俺は嘆息しながら着替えるためにひいじいちゃんの部屋に向かい、襖を開けた。


「あら? おはようございます、シャロ君」


 だがその部屋には先客がいた。

 音把さんだ。

 しかしその格好はいつもと少し違う。

 まあ確かに浴衣ではあるのだが……、その白い浴衣は濡れて僅かに透けている上に、脱ぎかけているため彼女の大きな胸が露になっていた。

 

「うわ!? 音把さん!? 何でそんな格好なの!?」

「いえ。すみません。洗濯機を回していたのですが、水がはねて濡れてしまってですね」


 俺は顔を赤らめて、部屋の外を向き、更に顔を手で覆い隠した。

 そんな俺に彼女は見え透いた嘘をつく。


「ちゃんと使い方教えたろ!! それに最近の洗濯機はそんなに水がはねることは早々ねえよ!! ……わざとやったんじゃないの?」

「あらぁ? 嘘ではありませんよ。まさかシャロ君ってば、決め付けでそんなことを言うのでございますか?」

「き、決め付けっていうか……」

「そんな悪い子には……お仕置きですよ?」


 顔を隠していたために反応が遅れた。

 音把さんは俺に足音を殺して近づき、そのまま抱きついてきた。

 そしてその豊満なバストを俺の胸板に押し付ける。

 うわあああああ!!

 柔らけええええ!!

 マジで、超柔らかい。

 昔、同じ学部の彼女持ちの友人に言われたことがある。


「あんな、シャロ。Eカップ揉んだら世界変わるで」


 俺はその言葉の重みを実感している。

 音把さんの豊満な胸は軽くGカップはあるんじゃないだろうか?

 やばい、破壊力半端無い。

 女性のカップ数なんて見ただけでは俺にはわからないが、とりあえず彼女の胸はでかい。

 エロ漫画やらAVを見ていた時は、俺は貧乳派だとか言っていたんだが、もう音把さんの胸を見た後はそんなこと言えませんよ。

 もうやべえよ。

 何かもう色々すごいよ。

 ――とか言っている場合じゃない。

 抑えろ俺。

 抑えないとまずいんだよ!!

 もうなんていうか、息子というか、斜郎君の斜郎君みたいな奴が離陸準備オッケーな状況なんだよ。

 これ以上下手なことをされると俺の理性がマジでテイクオフする。

 どうにか逃げようとするが、俺の腰に回された手の腕力が強すぎて逃げられない。

 どうしよう。


「あらあ? 何か硬いものが(わくたし)に当たっていますよ?」

「うぐッ!? 気付かれた!!」


 必死で腰を引いていたのに。

 なんてこった。

 音把さんは舌なめずりをしながら、俺の目を見つめた。


「ふふふ、お仕置きなのに興奮するなんて、悪い子ですね。そんな悪い子には……、もっとお仕置きですよ」

「え、な、何すんの!?」

「実はですね、私。悩みがありまして。……シャロ君は、私のこと……、その、千代や狐々が言うみたいに、おばちゃんだって思いますか?」


 困ったような表情で、音把さんは俺にそう言った。

 ああ、気にしてたのか。

 嘘をつく必要もないので、俺は率直な感想を返した。


「そうだな、……確かに他2人ほど若々しい感じはしないけど」

「……は、はっきり言うのでございますね」

「ああいや、でもその代わり、なんと言うか、年上の艶というか、色気はすごく感じるよ! なんと言うか、年上美人というか、音把さんは顔もきれいだし、スタイル良いし。本当に素敵だと思うよ!! うん!! イエス!!」


 最初にあまり良い言い方をしなかったので取り繕うような言い方になってしまった。

 音把さんは美人だから、本当に気にしないで良いと思うのだけれど。

 俺の言葉に音把さんは笑顔を輝かせる。

 

「本当でございますか!? 嬉しいです!! 感激の極みでございます!!」


 普段は大人っぽいんだけど、こういうときの音把さんは可愛らしい印象なんだよね。

 笑顔が明るくて素敵だ。


「ふふふ。私もきれいになるために日々頑張っていますからね!! では、ですね。その一環としてですね、私の胸の形を整えるためにシャロ君に揉んで欲しいのです」

「どういう理屈でそうなるの!?」

「殿方に胸を揉んでもらったら張りが出て形が保たれると聞きましたので。嫌がっても逃がしませんよ? お仕置き、ですからね」


 ぐぅ。

 どうしよう。

 音把さんのGカップおっぱい、略してGカッぱいなんて揉んだらマジで俺の理性は吹き飛ぶ。

 日本の未来を守るために、何とか理性は保たねば。

 何とか音把さんから離れようとするが、本気でこの人は力が強い。

 あんな金棒を振り回しているのだから、腕力がすごいのも納得ではあるのだが。

 それでも俺は逃れるために、なんとか振り切ろうとするのだが、彼女が更に強く俺のことを抱きしめてくるため逃げられない。

 

「ふふふ、逃がしませんよ。ちゃんとお仕置きを受けてもらうまで……」

「――ぐうう、お腹痛い!!」


 そこで俺が取った作戦は、『秘儀お腹壊したフリ』だ。

 流石にう○こ漏らすような状況になれば、音把さんも離してくれるだろう。

 と思って、俺は歯を食いしばりながら必死でお腹が痛いフリをした。

 

「――え? ほ、本当ですか!? も、申し訳ありません!! 強く抱きしめすぎましたか!?」


 だが、どうも彼女は違うように取ったらしい。

 彼女が強く抱きしめすぎた所為で、俺が怪我でもしたと思ったらしい。

 まあ仮に怪我するにしても、抱きしめられているのは腰なので腹を怪我することはないと思うが、ここは流れに乗ろう。

 

「ああ、いやいや。次回から気をつけてくれれば良いから」

「いえ、……その、本当に、……申し訳ありませんでした」


 シュンとした表情で俯いた音把さんは力なく謝り、俺から離れた。

 な、何かそこまでされると良心の呵責が……。

 ど、どうしよ。


「だ、大丈夫! そんなに大したことないから、気にしなくて良いよ!!」

「……申し訳、ありませんでした」

「え、えーと、本当に気にしなくて良いよ。じゃ、俺は着替えてくるからね!!」


 空気に耐えられず俺は部屋を出た。

 ううん、悪いことしちゃったかな。

 今度お詫びに和菓子でも買ってこようか。

 でも、取り敢えずは着替えよう。

 俺は脱衣所に向かい、服を着替えた。


「頂きます」

「はーい、どぞー」


 俺はやっと遅めの朝食にありついた。

 今日は卵焼きと冷奴、きんぴらごぼうにお味噌汁だ。

 狐々さんは妖怪なので当然なのだろうが、和食しか作れない。

 フレンチトースト作る妖怪とかどうなのって気もするしね。

 日本妖怪と西洋文化というのはイメージ的に不思議な気もする。

 ミサイルで殺された妖怪も昔読んだ漫画には出てきていたけど、そう言うのは中々ないだろうしな。

 まあなんにせよ彼女の料理はうまいので文句はない。

 俺は朝でも腹がきちんと減るので、それなりにボリュームのある朝食をきちんと食べ終え、両手を合わせた。


「ごちそうさまでした」

「はーい、お粗末さまでした、ってな」


 そう言って狐々さんはにっこりと笑った。

 なんで俺がメシ食っているのをいつもこの娘は見ているのだろう?

 よく考えると彼女の作った料理を食べるときは毎度そうだ。


「なあ、何で俺がメシ食ってるとこ、いつも見てるの?」

「えっ!? いや、そんな大したことじゃねえけどさ。やっぱ……美味しそうに食べてもらえると、作ったほうも嬉しいじゃん」


 狐々さんは機嫌よく尻尾をパタパタと振りながらそう答えた。

 可愛い。

 めっちゃモフモフしたい。

 狐々さんは、口は悪いけど根は良い子なんだと思う。


「はーあ、何かまだ疲れが抜けないなあ。今日はバイトも何もないし、のんびりするよ」


 食器は九十九神なので、放っておいても問題ない。

 俺はクーラーの利きがいい隣の和室に向かい、胡坐を掻いて座った。

 気持ちがいい。

 今日はこのままのんびりしよう。

 俺は近くにおいていた文庫本に手を伸ばした。

 旅人の主人公と飼い猫がメインキャラで出てくる小説だ。

 この物語ものんびりしているので、今日のような気分にはぴったりだろう。そう思い、俺は本を開いた。

 しかし――。


「じゃあ、アタシはダーリンの脚借りちゃうぜ!」

「うわっと」


 狐々さんが俺の太ももに頭をおいた。

 彼女のふわふわした毛が服越しにでも心地いい。

 そして狐々さんが俺をしたから見上げる。


「なー、これ何の本?」

「小説だよ」

「字がいっぱいの奴か。あたしそういうの見ないもんなー」


 そう言いながら、彼女は俺の太ももに頭を擦りつけ、さらにフンフンと鳴らしながら鼻先で俺の腹を擦った。

 ちょ、なんとも言えない感触が登ってくる。


「いや、狐々さん何してんの!?」

「えー、いやなんとなくさ。ほらアタシ、妖狐だからさ。鼻がいいから気になる匂いがあると嗅いじゃうんだよ」


 しかし、彼女はそれだけに留まらなかった。

 あろうことか、俺のシャツの下の下腹部あたりに舌を這わせ「ぺろ」という軽い言葉と共に舐め始めたのだ。

 

「ちょっと、いい加減にしとけよ!!」

「ほら、犬とか猫も人間の手を舐めたりするでしょ? アタシもさ、偶に舐めてないと落ち着かないんだよ」

「じゃあ飴でも舐めてろよ!!」

「舐めるって言っても、それは何か違うだろ。……じゃあ、代わりにアタシのこと撫でてよ」

「え? どんな感じで?」

「ほら、耳の下とか、顎の下とかあるだろ?」


 俺は一度本を置き、仕方なく狐々さんの顎の下を撫でる。

 うわあ、しかしまあ、モフモフとした獣特有の毛の柔らかさがたまらない。

 彼女は頭から髪の毛のように長い体毛が伸びているがそちらもふわふわのようだ。

 軽く触れると、俺の指先に快い感触が伝わる。

 やばい、たまんないなこれ。何か嫌なことがあれば定期的にモフらせてもらおう。


「なあ、耳も触ってくれないか?」

「ん? ああ、いいよ」


 別に変なところ触るわけでもないし。

 そう思い、俺は狐々さんの耳の先を触る。

 すると、狐々さんの体がピクリと反応した。

 うん? どうしたんだろうか。まあ動物を撫でるのは実家の犬で慣れているので、気にせずに撫でる。

 

「ん……っ! あ、……ふう」


 あれ? 何で喘いでんの? 狐々さん?

 どうしたんすか? マジ待って? これは耳の所為か?


「クゥ……、クックゥ」


 軽い鳴き声と共に、狐々さんが俺の手をぺろぺろと舐める。

 ぐッ!! 狐々さんが妖狐であることは分かっているんだが、ていうか顔は狐っぽいんだが、声が色っぽい上に手の舐め方がエロいため、なんだか変な気分になる。

 狐々さんは尻尾をゆっくりと振り、何故か目付きはトロンとしていた。

 あれ? これまずくね?


「ねえ、もっと耳触って……」


 なんだよ!! 狐狐さんは耳が性感帯かなんかなのかよ。

 これ以上耳を触るとまずい。

 俺は両手で狐々さんの頭や顎を撫でて行く。

 犬を撫でていたとき、できる限りあの子が気持ち良さそうにしていたやり方を思い出しながら、丁寧に撫でる。


「なんだよ……、もう耳触ってくれないのかよ」

「また今度な」

「ケチ……」


狐狐さんはむくれたようにそう言ったが、俺が暫くなでているとそのまま寝入ってしまった。

 ……よかった、眠ったか。

 あのままじゃ変な気分になってしまって――。


「クゥ……クッ」


しかし、それだけでは終わらなかった。

 狐々さんは軽く鳴き声を挙げながら、鼻先をぴくぴくと動かしている。

 寝言だろうか。

 家の犬もああいう寝言は言っていたが、妖狐もそうなのか。

 と思っていると、寝惚けた狐々さんはそのまま鼻先をジーンズ越しに、俺の股間に擦り付けてきた。

 ヤバイ、ジーンズの上から擦られると逆にエロく感じる。

 あわわわわわ。ど、どうしたらええんや。

 しかし、眠ったばかりの狐々さんを起こすわけにも行かない。

 耐えろ。

 耐えるんだ俺。

 俺は何とか股間を手でガードし、耐えようとするもその俺の手を狐々さんがぺろぺろと舐め回す。

 こいつもうわざとなんじゃねえの?

 しかし、俺の理性は何とかもってくれた。狐々さんは深く眠りについたようで、動きを止め静かに寝息を立て始めた。

 はあ、危ない戦いだった。

 もうちょっとで、俺のロケットが大気圏突破するところだった。

 だがこれでまだ昼にもなっていないんだからな。

 朝からしんどいな。

 俺の一日はまだまだ続くのに。


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