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第二話 妖怪

「ぜー、ぜー」


 俺は荒くなった息を落ち着かせるべく、深く息を吸い、吐き出す。

 いやいや、誰があんなマニアックなデリヘル嬢頼んだよ。

 聞いてないよ。普通に茶髪の似合うかわいいユミちゃんという娘が来るはずなんだけど。

 あんな筋肉だるまバニーガールじゃ()つものも勃たねえ。

 とりあえずチェンジしてもら――。



「ぬううううあああああ!!!!」


 その瞬間、戸をぶち破って筋肉バニーが突っ込んできた。

 ガラス戸が砕け、木片とガラス片が舞い散った。

 俺は呆然とその光景を見つめていた。


「ふむ。男が好むと言う『ばにぃがぁる』とやらで来てみたのだが、何ゆえ我を拒むか? まあ、良い。拒むのなら――無理矢理にでも犯すのみッ!!」

「嫌アアアアアアア!!」


 俺氏、貞操の危機!!

 ていうか犯すって何!? 本番なしじゃねえのか? デリヘルって。

 俺は踵を返し、駆け出した。

 これでも足には自信がある。伊達にかつて運動部に入っていたわけではない。

 廊下を突っ走り、和室を抜け、縁側に飛び出し置いてあったサンダルに足を突っ込む。

 庭の向こうにある竹林に入り込み、全力で駆け抜ける。

 今日は満月であるため、街灯のない場所でも明るい。

 お陰で転ぶことはないだろう。


「クッソ!! なんなんだよアイツ!! 意味分かんねえ!!」


 だが、このまま走っていけばやがてまけるだろう。

 そう思い、俺は振り返った。


「待ァあああああてェえええええ!!!!」

「うおおおおお!? 速ぇえええええ!!」


 何あのバニー!! めっちゃ足速い。

 50メートル走5秒台の俺に追いついている。

 いや、寧ろ俺より速いだとッ!?

 山の中で俺はサンダルであるため、全力では走れないとは言え、アイツは本当に速い。

 洒落にならねえ。


「さあ!! ヌシの遺伝子を寄越せええええええ!! そして孕ませろおお!!」

「ふざけんな!! 人生初エッチが筋肉だるまバニーガールの逆レ○プとか一生のトラウマじゃボケエエエエ!!」


 クソ!! どうする!? このままじゃ追いつかれる。

 どうもアイツはデリヘル嬢ではないようだ。色々おかしいだろ、アイツは。

 ならチェンジも何もない。逃げ切ることも出来ない。

 どうする? このままこんなわけの分からん女に、俺の童貞をくれてやるのか……?


 ――否ッ!!

 

「テメエみたいなのに俺の純潔をくれてやれるかッ!! 勝負だ!!」


 俺は足を止めバニーガールと向き直り、両拳を握り、半身の姿勢をとり、脇を畳み、肘を軽く曲げ、右拳を顎の前に、左拳をその前に出して構える。

 右構え(オーソドックス)のファイティングポーズだ。


「ほう、我と戦うか!! ならば勝者が敗者の体を得るとしよう!!」

「いらねえよお前の体は!!」


 バニーガールは勢いを乗せてそのままに突っ込んできた。

 ガタイは明らかに向こうがいい。

 俺は身長178センチ、体重は64キロだ。

 ボクシングスタイルでは分が悪い。

 柔道も齧っていたが、そこまで長くやっていなかったので、自信はない。

 だが――。


「――勝つしかねえだろ!! こんな奴に俺の童貞をやれるかッ!!」


 襲い来るバニーガールのタイミングに合わせて、カウンターを放つべく、俺が左足で踏み込んだその刹那――。


「ぬうあッ!?」


 豪ッ!! という大きな音と共に、突風がバニーガールを襲い、吹き飛ばした。

 バニーガールは驚愕の声をあげ、そのまま風に飛ばされた。

 なんだ!? 何が起きたんだ!?

 俺は拳を止め、周囲を観察する。

 だが、周囲には誰もいない。

 

「参ったなー。まさか発情ウサギが一番乗りだなんて。ボクが一番だと思ったのにさ」


 そんな声が空から響いた。

 俺は慌てて空を仰いだ。

 すると、満月に重なるように影が見えた。

 よく見ると、それは人間の背中から大きな翼が生えているらしく、それで空を飛んでいるらしい。

 小柄な人間の姿に鳥のような翼、山伏のような装束、右手には葉団扇、そして赤く鼻の高い仮面を顔の左半分を覆うようにして装着している。


「……天狗?」


 そう、その姿はまさしく昔話に出てくる天狗であった。

 俺の言葉に、天狗は笑みを浮かべた。


「はい、お初にお目にかかります。ボクの名前は――」

「甘いのでございます」


 天狗が口を開くと同時に、別の女性の声が聞こえた。

 そして、雲ひとつ無かった空から突如として紫電が落ち、天狗を貫いた。


「うわああああああ!!」


 全身を雷に包まれ、天狗は翼からぷすぷすと煙を上げながら地面に墜落して行った。

 俺は唖然としながら落ちていく天狗を見ていた。

 大丈夫か? 生きてはいるみたいだが……。

 まあ、目立った外傷は無いみたいなんだけどな。

 つうか落雷って普通死ぬんじゃねえの?


「危ないところでございましたねえ。ふふふ」


 今度は誰だ? 俺は新しい声の主のほうを見た。

 そこに居たのは、赤髪を(かんざし)でまとめ、黒地に紅葉柄の浴衣を着、そして額から2本の鋭い角を伸ばした女性だった。

 そしてその手には細身の体には似合わない、無骨な金棒が握られていた。

 その姿を一言で言い表すなら……鬼、と言う言葉がしっくり来るだろう。


「……なんだ? 今度は鬼か?」

「ええ、そうですわ。(わたくし)は……」

「どーんッ!!」

「痛ッ!!」


 優雅な仕草でその女性が頭を下げようとしたところで、また何か新しいのが現れ、鬼の女性にドロップキックをかまして弾き飛ばした。

 鬼は二度、三度とバウンドしながらそのまま勢いよく竹林に突っ込んで行った。

 俺はもういい加減慣れてきたので、頭を掻きながら新しく現れた相手に目向けた。

 そいつは、頭からは金色の毛に包まれた大きな耳、腰からは三本の尻尾、そしてその身を和装メイド服に包んでいる。

 と、言えばケモ耳娘のように思えるのだが……。

 その娘の獣要素は何も耳と尻尾だけでない。

 端的に言い表すなら、二足歩行の服を着た狐、と言う表現がぴったり来るような姿なのである。

 全身を毛に覆われ、顔立ちも人と狐を足して割ったような顔立ちだ。

 瞳も金色なのだが、やはりそれは人間というより獣に近い。

 可愛いと言えば可愛いんだけどさ……。

 まあ、少々人間離れした感はあるよね。

 まさしく『ケモノ』と言う感じだ。


「ハァイ! ハジメマシテー! アタシは妖狐の――」

「ぬううううう!!」

「きゃうん!?」


 またしてもその名前の口上は途中で邪魔された。

 最初に吹っ飛ばされていたバニーガールが、大きく跳躍し、狐娘を思い切り踏み潰したからだ。

 大丈夫か? 死なないか?


「痛いだろ!! この筋肉ウサギ!!」


 大丈夫だった。生きていた。

 上に乗っていたバニーガールを弾き飛ばし、バニーガールも跳躍して離れた。


「知らんな。それよりもよくもこの我の邪魔をしてくれたな。天狗風情が」

「五月蝿なあ!! ボクが一番乗りしたかったのに。鬼のおばちゃんにも邪魔されるし」

「ふふ。私がおばちゃんですって? なめた口を利きますわねえ。躾のなっていないお子様はこれだから。まあ、獣妖は大きくなっても躾も何もないみたいですが」

「ハア!? アラサー鬼女のくせに!! 舐めた事言うんじゃねえぜ!!」


 そして、全員で喧嘩を始めた。

 なんなの? コイツら?


「えーと、誰、君達?」


 俺は状況に追いつかない頭を必死で回転させながら、騒ぎまくる4人――といっても単位が人なのかさえ危ういのも居るんだが――にそう尋ねた。

 するとバニーガールを除いた3人はハッとした表情を浮かべ、その一方でバニーは何故かきょとんとした表情を浮かべている。

 このバニーガールは本気で意味が分からないんだが。


「も、申し訳ない!! ボクは天狗の千代(ちよ)小桜(こざくら)です」

「申し遅れました。私は赤鬼の(おと)()()()と申します」

「もう、邪魔なウサギの所為だぜ!! ごめんなー! アタシは妖狐の狐々(ここ)秋葉(あきは)って言うんだぜー!!」

「よく分からんが流れに乗って我も名乗りなおそう。我は玉兎(ぎょくと)真理(まり)()である!!」

「……そっか。俺は山本斜郎(さんもとしゃろう)。じゃあ、本題。君達は何しに俺の前に現れたんだ?」

「ボクは――」

「私は――」

「アタシは――」


 俺の問いに、彼女達は口を揃えて言った。




「あなたの『お嫁さん』になるために参りました」



 ……え? どういうこと?


「我は主の遺伝子をもらいに来たまでよ!!」

「てめえは黙ってろ!!」


 勝手にシャウトする筋肉ウサギに俺は怒鳴り返した。

 もう何が何がなんだか分かんねえ。


更新した際はツイッターにて報告いたします。

一応張っておきます。

よろしければどうぞ。

https://twitter.com/senogutihide

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