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最終話 ちゃんちゃん

すみません。

大変お待たせしました。

 ――ドサっ、と。

 倒れ臥したのは左舷と呼ばれた刀を持った男の方だった。


「……え?」

 

 その様子に着流しの男が疑問の声を漏らした。

 俺は、まあ当然だろうなと思いながら、立ち上がりつつ頬の返り血を拭った。

 気持ち悪い。

 生きてきた中で多少は怪我をしたこともあるが、流石に返り血を浴びたのは初めてのことであった。

 マジ勘弁してくれ。


「な……、何をした?」

「別に? 俺は何も?」

「何もしてねえハズが無いだろッ!! オイ! 右舷!!」


 着流しの男が怒鳴ると同時に、今度は右側の男が駆け出した。

 血走った目で懐から匕首、いわゆるヤクザの使うドスを引き抜き襲い掛かってきたが、俺は特に慌てることなくポケットから棒付きキャンディーを取りだし、包装を剥がして口に放り込んだ。


「うん、美味え」

「……ッがああ!!」


 俺の態度に更に激情したのか右舷と呼ばれた男は大きく跳躍し、俺を目掛けて匕首の刃を振り下ろした。

 だが、それは悪手だ。

 ――ドォッ!!

 

「……え?」

「君さぁ、ちょっと落ち着きがないんと違う?」

 

 肩に突き刺さったダーツに目を丸くした男に、俺はそう言った。

 どんな攻撃を喰らったかもわからないというのに、襲い掛かって、しかもその上ジャンプして身動きの出来ない空中にいくとは、古武術の達人でも何でも無い俺でも駄目なことはわかるさ。


「まあ、これからは年相応に落ち着きたまえよ。お前が何歳か知らんけど」

「……ッ!?」


 ズドドドドドッ!!

 体勢を崩し落下しようとしていた右舷に、十数本のダーツが突き刺さった。

 うわ、超痛そう。

 まあでも、なんだ。

 そこらへんはお前らの自業自得ってことで。


「殺さないようには言ってるし、大丈夫だろ」

「……え? あ? ダーツ、だと? なぜ、そんなものが……?」

「おまえさぁ、ちょっと舐めプかましすぎじゃない?」

「な、なんだとッ!?」

「いやあ、だってさ。狐々さんをうまく拉致って調子乗ってたのか何なのか知らないけどさ。……あの娘らだって、伊達や酔狂で四天妖なんて呼ばれてなかったんだぜ?」

「な、にを?」


 そのとき、神社の境内に数人の人間が投げ込まれた。

 死んではいないようだが、意識を失っているらしく動いてはいない。

 そいつらを見て、着流しの男は口をパクパクと動かしていた。

 それはそうだ。

 なにせこいつらは本来、仁菜さん達の行動を邪魔するためにこの着流しの男が放った部下達であったからだ。

 そしてそいつらが倒れているということはつまり。


「……俺の部下が、全滅だと?」

「当然でございましょう?」

「ボクらだって、四天妖の端くれなんだからね」

 

 神社の鳥居の前に立っているのは、仁菜さんと千代君だった。

 二人とも当然のように無傷であった。

 だが、その先の結界にまでは踏み込んでこず、その様子を見た着流しの男は高らかに笑った。


「は、ははは!! そうだ!! 流石に結界の中までは入ってこれまい!!」

「いや、お前。ダチョウの方がもう少し頭いいぞ?」

「――ッあ!?」


 着流しの男が自分の前に張った結界がギリギリで飛来したダーツを防いだ。

 神社に張られた結界はどうやら妖怪の類を弾くもので、今張ったものは物理的なものを弾くらしい。

 結界というのは便利だな。

 俺も使えるようになりたいものだ。


「クッソ!! コレは……玉兎の攻撃だったのか!! しかし、一体どうやって!?」

「あのビルの屋上から、純粋にパワーでダーツをブン投げてるだけだよ」


 そう言って俺は神社から2キロほど離れたビルを指差した。

 俺の視力では見えないが、恐らく真理亜はあそこに立っているはずだ。

 

「2、2キロメートル先からダーツを投げただと!? 俺のこの結界は妖力を纏ったもの全てを弾く!! つまりは、アイツは2キロメートル先から、純粋な腕力と技術でダーツを性格に投擲したというのか!!」

「せやな。まあ、伊達に『神』の名を冠してはいないってことさ」

「……クソッ!!」


 着流しの男は咄嗟に狐々さんに手を伸ばした。

 またしても人質にする気だろう。

 しかし、それを牽制するようにダーツが投擲され、狐々さんと男の間の境内の床に突き刺さった。

 男の視線が俺からはずれ、そして一瞬動きが固まった。

 その瞬間、俺は地面を蹴り駆け出した。

 結界は、男の正面のみをガードするように張られている。

 それはつまり、真理亜からの射線を防いではいるが、俺が回り込めばどうと言うことは無いってことだ。


「しま――」

「気付くのが遅ぇよ。歯ぁ食いしばれよ」


 俺はポケットから拳にはめる金属製の武器――メリケンサックを引き抜き、右拳に装着すると走った勢いをそのままにして拳に体重を乗せた。

 最近はメリケンサックのようなものでも、護身用として簡単に手に入る。

 現代文化に感謝だな。

 俺のメリケンサックに男は顔を青ざめさせた。


「そ、それは反則だろ!!」

「反則も何もねえだろ。それじゃあな。えーと……。お前の名前知らんな。まあ、誰でもいい、――くたばれオラアッ!!」

「がっはあ!!」


 俺は全力で右拳を振りぬいた。

 メリケンサックが男の前歯を砕き、男は倒れて気を失った。

 歯が折れたことで殴った俺のほうがちょっと引く量の血を流している男に、言った。


「すまん。歯を食いしばってもどうにもならんかったな」


 コレに関してはマジですまんかった。

 ここまでえぐいとはな。

 まあ、狐々さんを散々痛めつけてくれたんだ。

 コレでチャラってことにしてもらおう。


「やあやあ、狐々さん。大丈夫?」

「……あ、アンタは、大丈夫なの?」

「うん、見てたろ? 何事も無かった」

「……はあ、もう本当、心臓に悪いからやめてよ」

「それはこっちのセリフだよ。……ねえ、狐々さん」

 

 俺は努めてまじめな口調で言った。

 狐々さんも、俺の目をじっと見つめてきた。


「君の過去の出来事は、真理亜に聞いた」

「……ッ!! 余計なことを!! アタシは別に同情されたくはない!!」

「いや、同情なんてしないさ。俺はそんな下らない感情は持ってない。でも、まあ、なんだ。困ってる奴を放っておいて、安眠できるほどメンタル強くないんだよ。だから……帰ろう。俺達の家に」

「……俺、達ね」


 秋葉さんは俺の言葉を反芻するように呟き、


「……フフ、悪くないな」


 そう軽く笑った。

 俺もまた軽く微笑んで、倒れる彼女の背中を膝に手を回し抱きかかえた。

 いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

 そしてそのまま俺達は帰路に着いた。


「き、きゃあ! 何すんのよ!」

「ん? いやだって、怪我してるし」

「一人で歩けるよ!!」

「大丈夫だよ。ちょっと重いけど」

「重いとか言うな!!」

「あー、都合よく魔王の力とか目覚めてくれればよかったのに。そんなことは無かったぜ」

「シャロ君、大丈夫ですか? 獣臭くありませんか?」

「仁菜!! お前喧嘩売ってんのかよ!!」

「僕も疲れたよー。ねえ、旦那様。帰ったら二人でお風呂入ろうよ、……気持ちよく、ね?」

「何か意味深だからヤダ」

「我、降臨!!」

「うおおおお!! びっくりした!! 何でお前空から降ってきたの!?」

「ジャンプしてきた!!」

「何でもありか!!」


 ごちゃごちゃ騒いでて、うるさいったら仕方ない。

 でも、楽しければそれに越したことはねえよ。

 俺は周りの勝手気ままな連中を見て、そう思った。




「やれやれ、逸るなと言ったじゃないですか。私は」

「ウチの部下が……面目ない」


 京都のとある寺院にて、数人の男女がろうそくの明かりの下で話し合っていた。

 彼らのまとう雰囲気は、どこと無く近寄り難いものであった。

 矮小な妖怪なら触れるだけで消滅してしまうだけの力を持ったもの達の集まり。

 それが五郎衆幹部会である。


「どうするんだ? やつら、今度はもっと警戒するだろうよ。こういうのは初手できちんと潰すべきだと思うんだがな」

「しかし、失敗したものは仕方が無いさ」

「ええい、ここは儂が直接――」

「まあ皆。落ち着きましょうよ」


 周囲の言葉を制すように、上座の眼鏡の男はそう言った。

 頬はこけ、病的なまでに瘦せているが食が細いわけではなく、今ももぐもぐと美味しそうに焼いた大福を食べていた。


「焦ることはありませんよ。山本五郎左衛門の復活さえ抑えてしまえばいいんですから。やりようなんて、いくらでもあるんですよ」

「……貴方がそうおっしゃるならば、我々はただそれに従うのみですよ。頭目」


 大福を嚥下し、上座の男は優しく微笑んだ。




「あー、眠い」


 散々騒ぎながら帰った後、夕食や風呂も済ませ、すっかり暗くなり、俺は大あくびをしていた。

 その膝の上では千代君がすやすやと可愛らしい寝息を立てていた。

 寝ているときは大人しくていいんだけどな。


「眠いんだったら、ベッドにいけよ。別にやることも無いんだろ?」


 隣で本を読んでいた狐々さんがそう言った。

 体にはまだ、あちこち包帯が巻かれているが、幸い傷はそう時間をかけずに治りそうだった。

 流石は妖怪ってところかな。


「ああ、そうだな。寝ようかな、もう。今日は疲れたしな。……ほら。千代君もちゃんと寝室に行きなよ」

「んー。やだぁ。このまま、寝惚けた振りして旦那様のアレを色々あれするんだもん……」

「うるせえ、寝ろ」

「はーい……」


 千代は寝惚け眼を擦りつつ、寝室に向かった。

 俺も寝ようかな。

 音把さんも真理亜も寝室に行ったしな。

 なんて思っていたところで、狐々さんが口を開いた。


「なあ、斜郎」

「……」

「ん? 斜郎?」

「……斜郎、とか面白みの無い言葉には反応しないよ」

「う……。わ、分かったよ。だ、……ダーリン」

「ハイハイ、ダーリンでございますよ」

「もう、面倒臭いな……」

「そう言うなよ。で、なんだい?」

「その……今日はありがとな」

「別に、大したことはしてないよ」

「……命の恩人が大したことない、ワケ無いだろ」

「そう言われるとそうだな。うん、大したことしたわ」

「……ホント、アンタとはやりづらいわ」


 狐々さんは軽く溜息をついた。

 そうは言われても、そう言う性格なのでどうにもならんよ。

 今更どうにかなる話でもないから諦めてくれとしか言いようが無い。


「でも、そんなアンタも結構好きよ」


 当たり前のように、狐々さんはそう言った。

 予想外の言葉に、俺は眼をぱちくりとさせた。

 ひょっへ? 

 どういうことですか? 童貞にもわかるようにお願いします。


「どうせあんたらもどっかで見てるんでしょ?」

「あらぁ。気付かれてしまいましたか」

「参ったねー」

「うむ!!」


 ドアの隙間からこちらを見ていた三人が、姿を現した。

 除いていやがったのか。

 マジで勘弁しろよ、オイ。

 つうかさっきの聞いてたのか、こいつら。


「ねえ、ダーリン。無駄に照れてもしょうがないからさ。……腹をくくるよ。アタシ、ダーリンのことが本気で好きになっちゃったみたいだ」

「……マジで?」

「マジだよ」

「いや……、何で?」

「格好良く命を救われて、お姫様抱っこまでされて、惚れない女の方が少ないんじゃないのかな?」

「……そんなもんか?」

「そんなものだろ」

「え、えーと、秋葉。それは本気なの?」

「ああ、千代。そうだ、本当だよ。アタシは本気で、ダーリンが好きだ」


 その場の全員が驚きで固まった。

 結局のところ、その場の全員が自分の目的のためにここにいるはずだった。

 俺だってそうだ。

 自分が面白おかしくやるために彼女達を受け入れたはずだった。


「さて、じゃあ。言うことも言ったし、アタシも寝るかな。じゃ、ダーリンお休み」

「……お、おお。お休み」

「あ、ちゃんともう一回言っとくぜ。愛してる」

「……お、おお」

「さっきから、『おお』しか言ってないぜ」


 狐々さんは明るく笑ってそう言うと、部屋を出た。

 他の三人も何とも言えない様子で立ちすくんでいた。


「……ほら、お前らも寝ろよ」

「ああ、そうだね。……おやすみ、旦那様」

「お休みなさいませ。シャロ君」

「……今日からは、盗聴しなくていいか?」

「ああ、いいよ。あんたもお休み、真理亜。皆今日はありがとうな」


 俺は軽い調子でそう言った。

 そして、皆がいなくなったところで、ごろりと畳みの上に寝転がった。

 ……まさか、素直クールだったとはな。


「つうか俺、初めて告白されたな」


 マジか、20歳にしてモテキの予感だ。

 笑っちゃうぜ。

 でもまあ……、悪くない気分だな。

 多分、これからもきっと色んなトラブルもあるし、また五郎衆みたいなやつらも来るんだろうな。

 そう言うのは勘弁願いたいものだ。

 でも、それでも。


「今の俺、すっごくいい気分だ」


 アイツらが俺の家に来てよかった。

 アイツらを受け入れてよかった。

 コレからきっといろんなことが起きるだろうけど、そのすべてがわくわくする。

 さて、こんなところで俺の記録は一旦閉じよう。

 また、話が続くこともあるかもしれないけど、そのときはそのときだ。

 百鬼夜行録の一ページ目は、コレにて閉幕。

 ちゃんちゃん。


このまま話を続けるのがきつくなってしまったので、ここで完結します。

色々話の展望もあったのですが、申し訳ありません。

また何かの機会があれば、ボクの作品を読んでいただけると幸いです。

ご愛読ありがとうございました。

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