第十三話 帰る場所
これまでにも使用していましたが、*は視点が変化する場合の合図です。
一応明記しておきます。
「……遅いなあ」
狐々さんがいなくなってから、既に夕方になっていた。
昼時にも戻ってこなかったので、久しぶりに俺が料理した。
おかしい、いくらなんでも遅いだろ。
彼女が自分の仕事を放棄してどこかに行くとは思えない。
流石に千代君たちも焦っているようであった。
「そうだね、流石にボクも変だと思う……」
「ええ、彼女が自分の仕事を放り出すとは思えませんし……。まさか、何かに巻き込まれたのでございましょうか?」
「かもしれないな。……厄介なことになってしまった。マジどーしよ?」
俺は軽く首を捻り、思案する。
どうしようか。
狐々さんは妖狐だ。
身体能力は高い、交通事故とかには遭わないだろう。
しかし……だとするならなんだ?
やはり――。
「ごめんくださーい」
「はーい、今出ますんでー」
そう思案していたところで、誰かがやってきたらしい。
誰だろうか?
実家辺りから荷物かなんかでも来たのか。
俺は玄関に向かい戸をあけたが、そこに居たのは見知らぬ少年だった。
このあたりに住んでいる子どもかな、見覚えはないが。
ああ、ここの近くには小学校もあるので、そこの児童だろうか。
「これをね、なんだか知らないお姉さんがここの家に届けて欲しいんだって。ここまで来られなくて困ってたからね、代わりに持ってきてあげたんだ! ハイ、あげる」
「そっか、ありがとうね」
「うん、じゃあバイバイ!」
それだけ言うと少年は去っていった。
何だったんだろう。
俺は首を捻りながら、少年に託されたもの――一枚の封筒に目を落とした。
差出人の名前はなく、住所だけ残されている。
この街の中のようだが、その住所に覚えはない。
何はともあれ、中身を確認しようか。
俺は和室に戻り、棚からペーパーナイフを取り出した。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ああ、いや。何かよく分からない手紙が来てさ」
「シャ、シャロ君、ちょっと待つのでございます!!」
「え? どうしたの?」
「い、いきなり開けると危ないのでございます!! 私があけます!!」
「いや、こんな薄っぺらい封筒に爆発物も何もないでしょ? ぺらぺら柔らかいから刃物があるとも思えないし。……それともなんだい? 誰かに襲われる心当たりでも?」
「……いえ、そう言うわけでは」
「だったら、問題ないだろ?」
音把さん達に俺も突っ込みたいこともあるのだが、今はこの封筒の中身の方が先だ。
俺はペーパーナイフで封筒を開き、その中に入っていた手紙を取り出した。
……これは。
参った、実に面倒なことになったな。
「何と書いてあるのでございますか?」
「んー、ほれ」
音把さんの言葉に、俺は手紙を渡した。
音把さんは千代君と真理亜にも聞こえるように、手紙を音読した。
「……『妖狐は預かった。山本1人で封筒の住所の場所に来い。さもなくば化け物を殺す』ですか」
「ああ、実にシンプルで分かりやすいだろ? 今時、こんな手紙を出す奴がいるとはなあ」
「そうでございますか、まさか、狐々が捕まるとは……」
「ま、まずいことになったね……」
「むぅ……」
俺は嘆息し、頭を掻いた。
なんともまあ、厄介なことになってしまったなあ。
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「……お前ら、五郎衆か。本家の連中ではなさそうだけどさ。分家か、下っ端か?」
斜郎の家からいくらか離れたところにある、廃神社の境内に狐々秋葉は囚われていた。
秋葉の腕は細い注連縄に御札を何枚も貼り付けられたような縄で縛られ、両足には太い釘が打ち込まれ、どくどくと血が流れ、更に五芒星の結界に覆われていた。
それだけでなく、全身の至る所に小さな傷を負っていた。
その所為で体力は消耗しているようであったが、決してその眼の輝きは鈍っていない。
強く、自分を捉えた3人の男達を睨んでいた。
「黙ってろ、雑魚が。お前はそこでじっとしていれば良いんだよ」
男の一人、着流しを来た男が苛立ったように応えた。
他の2人は仮面を身に付けているため、顔は見えない。
3人の様子を確認しながら、秋葉はなお挑発を続ける。
「オイオイ、怒るなよ。分家か下っ端か分からないけど、お前ら五郎衆の中でも下のほうの連中だろ? アタシとお揃いだな」
「――黙ってろ!!」
更に苛立ったように着流しの男が手に一枚の札を取る。
墨でその札に記されていた文字が淡く空中に溶け、同時に秋葉の腕を縛る縄に張られた札が発光する。
すると、その縄がきつく締まり、秋葉の腕をぎりぎりと縛り上げる。
「ぐウッ……。あ、はは。ははは。なんだよ、怒るなって言ったのに」
「黙ってろと言っただろうがッ!!」
激昂する男の様子に自分の推測が当たっていたのだと、秋葉は確信した。
そもそもまだ復活が始まったばかりだとは言え、たった3人で五郎衆が魔王を殺しに来るとは思えない。
恐らく、手柄を逸りこのようなことをしたのだろう。
逆に言えば、この程度の相手に捕まる秋葉は大概に油断していたのであるが。
(ドジッたなあ。アタシ……多分死ぬな)
それが、秋葉が冷静にくだした判断であった。
恐らく、助けは来ない。
こいつらは三下ではあるが、どうやら結界は入念に張ってあるらしい。
神社を覆うように妖怪が入ってこられない結界が張られている。
その結界とは、反閉と呼ばれる独特の歩行法によるものと、天台九字と呼ばれる呪いを組み合わせ、その上で御幣という白い紙細工のヒトガタを用いることで強力な結界を張っている。
並みの妖怪ではこの中に入ることも出来ず、また入れたとしても大きく力が削られ、容易く討ち取られてしまうだろう。
(三下なりに技術はある。真正面から入ってくるのは、鬼や天狗でもきついなあ。多分破れれるとしたら……玉兎のような神妖級の奴だけだけど……。アイツはアタシを助けはしない。……駄目だ。何度考えてもアタシ、死ぬなあ。まあ、覚悟はしていたけどさ)
結界の中で秋葉は自嘲気味に笑う。
自分で自分が滑稽な道化にしか見えなかったからだ。
笑う秋葉に、男はまた苛立ったような視線を向けた。
「あはは。あぁ? なんだよ? どうしたよ? ウチのダーリンが来なくて寂しいのかよ? あはは。……アイツは来ないよ。音把達が止めるからな。アタシに、魔王復活を妨げるほどの価値はないぜ」
「――うるせえんだよ!! 獣風情が!!」
「ぐぅあ!! ああああああ!!」
秋葉の腕を縛っていた縄が更に締まり、やがて秋葉の肩から――ゴキンッ!! という鈍い音が響いた。
秋葉の肩が、脱臼した。
人型を取っている以上、骨格も人型だ。
当然肩が脱臼することもある。
熱と共に、痛みが秋葉の内側から押し寄せる。
「んっ!! ぐぅ、ああ、ううッ!!」
それでも必死に歯を食いしばり、口元には笑みを浮かる。
どれだけ痛くても、それが唯一、今の秋葉に出来る抵抗だったからだ。
秋葉は妖狐であり、その力を十全に発揮できれば相当に強いが、ここまでの結界に囚われては何も出来なかった。
「は、はは。あはは!! 誰も来ない待ち合わせ場所に、ずぅっと居るってのはさ、どういう気分なんだ? アタシにも教えてくれよ」
「精々虚勢を張るしかないくせに、よくやるな。このまま殺してやってもいいんだぞ?」
「あはは、どっちにしたってアタシは死ぬだろうが!! 最悪、アタシ達が裏で画策していたことを秋葉がバラせば、ダーリンも……、斜郎も来ないよ。残念だったな、この馬鹿が」
「……そうか、まあ馬鹿はお前だったようだがな」
「……は?」
着流しの男がにやりと笑って言った言葉に、秋葉は驚愕の表情を浮かべた。
そんなはずはなかった。
他の仲間たちが止めると思っていた。
何より、真理亜がいれば、最悪の事態にはならないと思っていた。
そんな自分の予想を裏切る事態に、秋葉は狼狽し、叫んだ。
「何でだ、何で来たんだよ。……山本斜郎ッ!!」
「――なんだ、ダーリンって呼んでくれないのか? 俺、あの呼ばれ方、本当に結構好きだったんだぜ? 面白いからさ」
真正面から堂々と、山本斜郎は姿を現し、秋葉にそう言って、笑った。
ポケットに手を突っ込み、傲岸不遜に笑っていた。
その笑みを崩さぬままに、斜郎はヅカヅカと秋葉に歩み寄る。
しかし、その道を男達が塞いだ。
二人組の男達は左右に広がり、着流しの男が正面に立ちふさがった。
「……ふぅん、お前らが五郎衆って奴らか?」
「ほう、知っていたか。まあここに来る以上はそうなのだろうがな」
「――な、何でそのことを知ってるんだ? 音把達が話したのか? いや、そもそも何でここまで来たんだ? オイ、斜郎!!」
「えー? だからダーリンって呼んでってばー」
「ふざけたことを言うな!! クソ!! 真理亜達は何していたんだよ!!」
焦り、苛立つ秋葉に、斜郎はなおも落ち着いて微笑む。
その態度に溢れる余裕に、男達は緊張感を高めた。
2人の男達はその手に数珠を、着流しの男はその手に数枚の呪符を持った。
そんな男達に、斜郎は軽く肩をすくめる。
「おいおい、素人相手にいきり立たないでくれよ。俺も別に余裕はないさ。でも、別に俺は狐々さんさえどうにかなりゃあ、それでいいさ」
「ほう、お人好しだな。だがそれならば都合はいい。貴様には我々としては生きていてもらっては都合が悪いが、恨みはない。――楽に殺してやろう」
「いや、だから素人をビビらすなよ」
斜郎は着流しの男の言葉に、冷や汗を垂らした。
斜郎もこの状況に恐怖していないわけではないのだ。
ポケットに手を入れているのも、震える手を隠すためのものだ。
ポケット越しにも伝わる震えが、そのことを伝えていた。
秋葉は斜郎の恐怖に気付き、怒鳴りつけた。
「お前……、お前がッ!! アタシのために、そんなことをする義理はないだろ!!」
「いいや、あるね。十分にあるさ。もう君達がいてどれくらいかな? 一月近くは経ったけど、……みんなでいるのは楽しかったんだよ。君と行ったデートも楽しかったしね」
「――それが、嘘だったとしてもかよ?」
「……え?」
「アタシらは……、お前を騙していた。千代も音把も、別にお前に好意なんて欠片もねえよ。ただ、お前の力を手に入れるために、騙してた。お前がアタシらに靡くならそれでいいし、そうじゃないなら妖術でも使ってお前を誑かせばよかった。……アタシ達がお前の隣にいるのは、全部打算だった。山本五郎左衛門様の復活の器がお前でよかったって、言ったろ?」
「……ああ、そうだな」
「でも、それだって嘘だ。お前がどんな奴だって、アタシ達はお前を利用する気だったんだ。アタシ達はお前を……道具としか見ていなかった」
秋葉は沈痛な面持ちを浮かべていた。
一方で斜郎は、何がなんだか分からずに、きょとんとしていた。
そんな斜郎に、秋葉は俯きながら言った。
それは決して騙していたからではなく、自分を信じた相手にこんな形で、自分の嘘を打ち明けることに、秋葉が後悔を抱いていたからだった。
斜郎はしばらく無言のままだったが、やがて軽く口を開き、言った。
「なあ、狐々さん」
「……何だよ。分かったろ、お前がここに来る意味はないんだ。今からでも遅くない。結界を出て、真理亜の助けを借りるんだ。アイツなら――」
「いや、全部知ってたよ。俺」
「ああ、そうだよ。アタシは……、え? なんて?」
「いやだからさあ、君らが俺を利用しようとしていたのも、夜な夜な会議してたのも、知っているよ」
「はあああああああああ!?」
当然のように言い放った斜郎に、秋葉は驚愕のあまり叫んだ。
更に斜郎は特に何かを気にする様でもなく、首の骨をコキコキと鳴らしていた。
追いつかない頭で秋葉は必死に言葉を紡ぐ。
「しゃ、斜郎!! 知ってたって……。何で!? 何で知ってた!? それに、知ってたなら何で来たんだ!?」
「えー、その説明またすんのぉ? 音把さんたちにもしたんだけどなぁ。面倒臭えなあ。まあ、いいや。あ、五郎衆さん。ごめん、ちょっと待っといてくれない? これで最期の話なんだ。多めに見てちょんまげ」
「あ、ああ。まあそれくらいはいいが……」
着流しの男も、雰囲気に飲まれつつあるらしく、斜郎の言葉に頷いた。
斜郎はポケットに突っ込んでいた左手を取り出した。
その手にはスマートフォンが握られ、そのまま片手で操作し、ボイスレコーダーのアプリを起動させた。
そして音量を最大限にあげ、離れた秋葉にも音が届くようにした。
『――舐めたこと言うなよ。この程度で、アタシの目的は変わらねえよ』
『ふぅん。それが本当ならいいけどね。しっかりしてよ? ボクらは勢力争いをする敵でもあるけど、人間を『滅ぼす』という共通意思を持った関係でもあるんだから』
『分かってるよ。……そろそろ、『五牢衆』が動き出す頃合だからな。うかうかしてらんねえよ』
『ならば、その役目をきちんと果たすが良い。我としては不本意だが、貴様らの族長が種の存続のため、不甲斐ない姿を五郎左衛門様に見せぬためと懇願するゆえ、我らが貴様らの行動を――』
「まあ、こんなもんか」
斜郎はそこで再生していた録音データを停止させた。
秋葉は最早、声も出ずにパクパクとただ口を動かしていた。
その様子を斜郎はニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべてみる。
まるで悪戯が成功した子どものように楽しそうな表情であった。
スマートフォンをポケットにしまい、斜郎は続けた。
「分かったろ? 俺は難聴系主人公ならぬ、盗聴系主人公だったわけさ。だから俺は君達が打算で俺のところにきたことも知っている。君達に事情があることも知っている。五郎衆という妖怪と敵対する退魔師の集団のことも知っているよ」
「い……いつから?」
「えーとね、……盗聴していたのは君らが初めてうちに泊まった日から。その前にご先祖様の山本梅さんが残していた手紙で、四天妖のうち、妖狐、鬼、天狗あたりが俺を狙いに来る理由は分かっていた。玉兎が来るとは記されていなかったけど、真理亜が他の奴らとはノリが違うからピンと来た。ああ、コイツは例外だ。俺を狙っているわけじゃない、多分、コイツは厄介ごとにならないようにする中立なんだろうってね。そう予想して訊いてみたら実際にそうだったからさ、真理亜に頼んで俺のスマートフォンを離れに持ち込んでもらって、盗聴させた」
「ま……真理亜が。そうか、アイツがお前のほうについていたのか」
「ああ、それにそもそも、君らが人間に好意的でないことは予想がついていた」
「――え? 何で?」
「そりゃあ、そうさ。君らが山本の力を欲したのは、人間の科学の進歩が妖怪達の力を超えたからなんだろ? つまり、君らは人間に迫害を受けているようなものなんだろう? 自然開発は進むし、人間は妖怪のことを段々と忘れていくし。だったら、人間は妖怪の敵なわけだ」
「そ、それはそうだけど」
「加えて俺も魔王の器とは言え、所詮は人間。多分、君らも人間に嫁ぐ、いや、実際には利用するだけだろうが、それでも人間に体を許すというのは、妖怪的にどうなんだろうね? まあ西洋妖怪のサキュバスとか、淫魔と呼ばれるのはそういう奴らの集まりなんだろうけど、鬼とか天狗とか、妖狐ってのは淫魔ではないし、多分嫌がる奴も多いんじゃないの? で、そういう損な役回りを受けるのは、下請けだ」
「……ッ!!」
その通りであった。
音把仁菜も、千代子桜も、狐々秋葉も、一族の中では発言権が低い。
いや、全員特殊な立場であるため、発言権はないといっても過言ではない。
誰もが拒む役割を、3人ともただ押し付けられたに過ぎないのだ。
そう考えれば如何に可愛かろうと男である小桜がいるのも分かる。
「……そこまで分かっていて、何でアタシ達を受け入れた?」
「ン?」
「アタシ達が、お前を騙す面して、騙されていたのが……面白かったからなのか?」
「ハッハー。同じことを、音把さん達にも言われたなあ」
ほんの少し前、仁菜や小桜、真理亜と、家で話していたときのことを斜郎は思い出していた。
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「ま。別に大したことはないんだけさ」
俺が笑ってそう言った言葉に、音把さんも千代君も身構える。
俺の協力者だった真理亜は動じていないが。
本当に大したことじゃないんだけどな、まあ勿体ぶらないでおこうか。
「主な理由は二つ。君らは乗り気じゃないんだろうが、それでも一族に任されたんだからそう簡単にその役目を放棄するとは思えない。だったら拒んでも君らは諦めないだろうし、そんなことになるとお互いに疲れるからさ。受け入れたほうが手っ取り早いと思った。あと、もう一個の理由で、そしてこっちが本命さ」
「と、言いますと?」
「楽しそうだったから」
「……え? ど、どういうこと? ボクにはよくわかんなかったんだけど」
「いや、シンプルじゃん。何か行き成りワケのわからん奴らが来たけど、これに首突っ込んだら楽しそうだと思った。だから君達を招いたんだ。まあ、何か派手に迷惑なことされるのは困るから、盗聴くらいはさせてもらったけど、まあ大事にはならないかと思って気にしてなかった」
「そ、……そんな理由で、私達を受け入れたのでございますかッ!?」
「うん、良いじゃん。実際に俺は今まで楽しかったよ」
「そ、それはそうだろうけど……」
音把さんと千代君は狼狽している。
やれやれ、この程度で動じるとは情けない奴らじゃのう。
楽しければ良いじゃんか。あとはどうでも。
「……クック。クフフフフ。アーハッハッハ!!」
「おお、どうしたよ。真理亜? 見事な三段笑いなんてかまして」
「いやあ、なに。やはりヌシは魔王の器であるな。山本五郎左衛門様によく似ておられる。特にその、注意深い癖に面白がって余計なことに首を突っ込む辺りがな」
「へえ、やっぱ似てるんだな。俺と魔王。話を聞いていてそんな気はしたんだけど」
「ああ、よく似ている。音把達が生まれる前に五郎左衛門様は消滅したため、音把達はわからんだろうがな、本当によく似ておられるよ。クックック、だから我はヌシについたのよ」
真理亜はそう言うと、傲岸不遜に笑う。
流石は神妖だ。
神を冠するだけはある。
というか、そんな強大な妖怪が馬鹿とは思えないというのが、俺の真理亜に対する評価であり、だから俺は真理亜が中立のバランサーであると気付いたんだけどな。
「左様ですか……、あなたは全て分かった上で私達を受け入れていたのですね……」
「まあねー。だから……狐々さんが俺を騙そうとしていたことも、俺はまったく気にしていない」
「……それは、ボクらが狐々を救う意味は無いと、そう説得しにかかるだろうと予想してのことなの?」
「ああ、そうだ。君達がどんな意図で俺の元に来ようと、結果的に楽しければそれでいい。君達の事情もある程度知っているけどさ、それでも俺は……譲れない」
ああ、そうだ。
これは譲れない。
これだけは譲れない。
俺は自分がやりたいことをやりたいし、やりたくないことはやりたくない。
やるべきことはそりゃあやるが、気合は入らない。
俺が全力を尽くすのは、俺がやりたいことだけだ。
「だから、狐々秋葉。俺は君といるのが楽しかった。君を俺は気に入った。だからさ……、帰って来いよ。帰って来てくれよ。君の帰る場所は、きちんとあるからさ」
狐々さんに俺はそう言った。
彼女は眉に皺を寄せて、歯を思い切り食いしばって、そしてこれ以上無いくらいに泣いていた。




