お姉ちゃんはデフォルトしました。
「デフォルトを宣言するわ!」
ボーイッシュなショートカットの姉は、デフォルトお姉ちゃんキタコレ!てへぺろーと言って舌を出した。
「……そう、それで姉貴に貸してる8万円はいつ返ってくるの?」
「えっ、返さないよ?」
「いや、返せよ!」
先月の中頃、友達の結婚式があるから、といって姉貴は俺から8万円を持っていった。
姉貴は二十三歳。超一流大学を卒業し、超一流企業に入った姉貴なら給料からすぐに返してくれるだろう。
そんな考えが甘かった。
姉は賢かったが、同時に酷いダメ人間だったのだ。
「仕事は辞めちゃったから、もう払えないよ」
「辞めた!?まだ四月なのに、五月病ですらねえよ!何でだよ!?」
姉は髪を弄びながら、アンタには解かんない事だってあるんだよ、と涙をこぼす。
セクハラか?嫌がらせされてる?イジメだろうか。
「遅刻するな、サボるな、遊ぶな、仕事以外の物を持ち込むなってうるさいんだ」
「仕事しろよ!いや、真面目になれよ!」
デフォルトした姉貴は、毎日寝転がってテレビを見ている。
俺は姉に給料の半分を渡して生活していた。
姉と違って頭があまり良くなかった俺にはあまりいい仕事が無い。月に社会問題で取材される程度の給料しかなかった。
「せっかくニートしてるんだから楽しまないと」
そう言って、遊びだと言って慣れない料理を作った。
姉と一緒の生活はいつまでも続くように思えた。
「姉ちゃんの方が稼げるんだから働けよ!」
俺はいつもそう言っていた。
一ヶ月程たって、姉は笑いながら言った。
「就職したよ。再建お姉ちゃんだね」
親に就職しないなら結婚しろと言われたらしい。
見かけだけは綺麗な姉だから、うんざりするほど話があったらしい。
「良かった、これで八万の債権は回収できるわけだ」
「債権は権利だよ。権って字が見えないの?権利って放棄できるんだよ」
「放棄できるのは債務者じゃない。債務者は義務だ。務って字が読めないの?」
デフォルトお姉ちゃんは、一ヶ月俺の側に居た。
債務は残ったままだ。
お姉ちゃんが次にデフォルトした時は、せめて姉貴以上に稼げるようになっていよう。