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97 漫画やアニメに出て来る、時間を止める能力者にでもなった気分だな

 川神学園の高等部側の校門を出て百メートル程歩いた頃合、慧夢は辺りを見回しつつ呟く。


「――そろそろ、凍る頃合だな」


 通行人が行き交う、住宅街の光景は、現実世界と変わらない。

 その程度に、志月の夢世界はリアルに出来過ぎている。

 だが、幾らリアルに出来過ぎた夢世界とはいえ、この世界はあくまで志月が作り出した夢の世界に過ぎない。

 世界が丸ごと作り出されている訳では無く、夢を構成するのに必要な場所だけが、作り出されているのだ。


 遠くの景色までも存在するかの様に見えるが、実際は存在していない。

 3D表示のゲームなどで、広大な景色が描写されていても、キャラクターが行く事が出来る場所が、余り広くないのと似ている。


 夢世界の中で、慧夢を含めたキャラクターが実際に行動出来るのは、目に見える広大そうな景色の中の、ほんの一部でしかないのである。

 夢世界の中において、夢の主が認識していなかったり、行かないだろう部分は、景色として見えていても、作り出されていないのだ。


 今、慧夢は志月にとっての通学路を歩いているが、これは志月が夢世界の中で行動する場所だから、ちゃんと作り出されている。

 故に、志月がソロプレイで楽しんでいたゲームの中に、勝手に乱入したプレイヤーのキャラクター同然の慧夢も、行動が可能。


 でも、通学路の脇道に入ったら、そこに本当に道が有るとは限らない。

 ゲームで良くある様に、見えない壁が存在したり、遠くまで道が伸びている風な絵が描かれているだけで、実際は先に進めなかったりするのだ。


 存在している建物も、その中までが作りこまれているとは限らない。

 志月が過去に入った経験がある建物なら、作りこまれている可能性が高いが、入った経験もなく、志月が入る確率も低い建物なら、現時点では中に入れなかったり、入っても空っぽだったりするのである。


 そして、作り出されている場所であっても、志月から離れてしまうと「凍る」のだ。

 慧夢の言う「凍る」という表現は、夢世界のキャラクターや自動車など、本来は動いている筈の物が、まるで凍り固まってしまったかの様に、動かなくなる現象を意味している。


 夢世界というのは極論すれば、主の為に演じられている芝居の様なもの。

 そのキャストであるキャラクターや動くセットである自動車などは、主が見ていない状況だと、芝居を続ける必要が無い。


 故に、間違っても主が目にする筈が無い、主から離れた距離にいるキャラクターや自動車などは、芝居を止めてしまい、固まった様に動かなくなるのである。

 おそらくは、夢世界を動かす為の何らかのエネルギーを、節約する為のシステムだと思われるが、正確な所は夢占流の人間にも分かっていないのだ。


 どの程度の距離、主から離れたら凍り始めるか、明確な決まりは無い。

 ただ、主が建物の中にいる場合なら、その建物から二百メートルも離れると、凍る場合が比較的多いので、川神学園の校舎から二百メートル程離れた辺りまで来た慧夢は、そろそろ凍る頃合だと考えた訳である。


「――やっぱりな」


 前方の光景を眺めながら、慧夢は呟く。

 前方……十メートル程の辺りに、動きを完全に止めてしまっている人々や自動車が存在するのに、慧夢は気付いたのだ。


 交差点の手前は普通に動いているが、道路を横切る横断歩道を越えた向こう側にいる人や車は、既に凍ってしまっている。


「交差点の向こう側が、凍っている訳か」


 志月がいる川神学園の方から来る自動車や人は、全て交差点を直進せず、右折したり左折したりして、凍ってしまう領域には入らない。

 入ると凍ってしまう為、凍らない領域を移動し続けるのだ。


 つまり、慧夢と同じ道を歩いているキャラクター達は、皆交差点に辿り着くと、青信号にも関わらず、直進せずに曲がるのである。

 だが、慧夢は構わずに横断歩道を渡り、凍ってしまう領域に足を踏み入れる。


 タイムスライス撮影された動画の様な、人や自動車などが動きを止めた光景の中を、慧夢は歩いて行く。

 時間が停まった世界で、慧夢だけが動けてしまう感じの状況。


「漫画やアニメに出て来る、時間を止める能力者にでもなった気分だな」


 凍った街並を見回しながら、慧夢は呟く。

 子供の頃に凍った領域に入った時、時間を止める能力者ごっこみたいな遊び方をしたのを、慧夢は思い出して、少しだけ恥ずかしくなる。


 慧夢は興味本位で周りを見回しているのではなく、手に入れたい物を探す為に、周りを見回しているのだ。

 そして、慧夢がいる歩道とは、車道をを挟んで反対側にある歩道に、慧夢は探している物が存在する事に気付く。


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