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86 あれ? ナイフよりコレの方がいいんじゃね?

「――とりあえず、先に時計の方を決めるか」


 慧夢は膨大な種類のナイフを目の前にして、迷い続けた挙句、頭を掻きつつ面倒臭げに呟いた。

 大抵の道具が揃うホームセンターを訪れ、とりあえずアウトドア用品のコーナーで、武器にする為のナイフを物色していたのだが、ナイフの種類が多過ぎたせいで、慧夢はどれを買えば良いのか分からず、迷ってしまっていたのだ。


 ホームセンターには時計売り場もあるので、慧夢は先に時計の方を決める事にした。

 少し離れた場所にある時計コーナーに向かって、慧夢は賑わう店内を歩き始める。


 天井からぶら下がっている、売り場の案内図をチラ見しつつ、キッチン用品やバストイレ用品などのコーナーを通り抜け、慧夢は時計コーナーに向かって歩いて行く。

 そして、カー用品コーナーを通り抜ける途中、何気無く目にした商品棚で売られていた商品が、慧夢の目に留まる。


 目に留まったのは、折り畳み式の小型の斧。シースナイフの様に折り畳める、鋼鉄製の黒い斧。


「何で斧が、カー用品コーナーに?」


 立ち止まって呟いた慧夢の疑問に、棚の上に掲示されていた商品宣伝のPOPポップが答える。

 POPには、水没した車の中にいる人が、窓を斧で打ち破ろうとしているイラストが描かれ、「どんな窓でも一撃で壊せます!」という説明文が添えられていたのだ。


「ああ、車が水没したりして、ドアが開かなくなった時に、窓を壊して外に出る為の奴か。そんな感じの、テレビでやってたな」


 慧夢は見本品の黒い斧を手に取り、弄ってみる。

 鋼鉄製の斧は見た目より重く、結構硬い自動車の窓を打ち破るには、十分な重さがある。


 POPの商品説明によれば、別に車載専用という訳では無く、刃には十分な切断能力が有り、木材の切断にも使える事をアピールしている。

 携帯用のケースがセットになっていて、アウトドアで持ち歩くのにも便利。


(あれ? ナイフよりコレの方がいいんじゃね?)


 そんな考えが、慧夢の頭に浮かぶ。

 事前の情報収集により、志月の黒き夢の夢世界における夢の鍵の本命は、最愛の兄である陽志。


 つまり、志月の夢世界に入った慧夢は、陽志を夢の中とはいえ殺さなければならない。

 夢の中に持ち込み易く、夢世界の中で持ち歩き易く、ちゃんと陽志を殺せそうな武器として、慧夢が選んだのは携帯用のナイフだった。


 だが、夢の鍵が陽志では無い可能性もある。

 陽志でなくても人間であるならナイフで殺せるのだが、人間ではなく物である可能性も考慮しなければならない。


 夢の鍵が物である可能性もあるからこそ、慧夢は志津子と話す機会を得た時、夢の鍵と成り得る、志月にとって宝物の様に大事な物が何か、訊いておいたのだ。

 まだ志月の命を救う決心をしていなかったが、決心した場合に備えて、情報を仕入れていたのである。


 ナイフでは破壊し難い物が、夢の鍵となっている可能性も、考慮しなければならない。

 志津子の話の中に出て来た物でいえば、金属製の指輪や、木製であっても硬い木刀などは、ナイフでは破壊し難いのではないかと、慧夢は思う。


「この斧なら、サイズの割りには結構重いし……ナイフで壊せない金属製の物や木刀でも、何とかなるんじゃないか?」


 ずっしりとくる重さの斧を折り畳んでみながら、慧夢は呟き続ける。


「折り畳めば、制服の後ろポケットにギリギリ入りそうな大きさだし、持ち歩くのにも便利。値段も高く無い……」


 考えれば考える程、ナイフよりも斧の方が良い様に、慧夢には思えて来た。

 しかも、その斧は妙に手に馴染む気が、慧夢にはしたのだ。


「よし、これに決めた!」


 ナイフよりも今回の件では利便性が高く、尚且つ手に馴染む斧を、慧夢は夢の中に持ち込む武器に決めた。

 見本品の斧を元の位置に戻すと、近くに置いてあった黒い箱を手に取り、再び時計コーナーへ向かって歩き出す。


 レジャー用品や園芸用品コーナーを通り抜け、慧夢は時計コーナーに辿り着く。

 品揃えは充実していて、修理や電池交換を受け付けるカウンターもある、専業の時計店顔負けと言える時計コーナー。


 壁には壁掛け時計が飾られ、棚には目覚まし時計やカジュアルな腕時計が並んでいる。

 一部の高級な腕時計などは、防犯上の都合なのだろう、分厚い硝子ケースの中に並べられているが、慧夢には硝子ケースの中に並べられている時計には、経済的な理由から縁が無い。


 腕時計同様に携帯する時計だから、懐中時計は腕時計の近くにあるのではと考え、慧夢は腕時計コーナーに移動し、その辺りを見て回る事にする。

 だが、腕時計は様々な種類の物があるのだが、懐中時計は何処にも見当たらない。


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