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83 もしも黒き夢の中に入って、籠宮の命を救い損なったとしたら、こいつらの顔見るのは……これが最後になる訳か

 その日の放課後、帰りのホームルームが終り、帰宅の準備や部活動に向う準備をする生徒達で賑わう教室の中。

 慧夢は背を伸ばして、大欠伸おおあくびをする。


「今日は一日中、眠たそうだったね。授業中や休み時間も、居眠りしまくってたし」


 部活に行く支度を整えながら、目に眩しい白い夏服のセーラー服姿の素似合が、呆れ顔で慧夢に語りかける。


「夜中に色々あったせいで徹夜しちまって、寝不足なんだ」


 一日の内に何度も居眠りしたせいで、一日に何人ものクラスメートの夢の中に入るという、慧夢にしても珍しい経験をした記憶を思い出しながら、慧夢は呟く。

 慧夢も素似合同様に夏服姿で、白い半袖のワイシャツに黒のズボンという出で立ちだ。


「――夜中に色々? 何それ?」


 右斜め前の席で、鞄の中に筆記用具などを詰め込んでいた五月が振り返り、興味深げに慧夢に問いかける。

 五月のセーラー服は紺色の冬服のまま、本来は六月から夏服なのだが、夏服だと寒いと感じる生徒もいる為、冬服で登校している生徒もいるのである。


「夜中……コンビニに買い物に行ったら、道で倒れてた人を見付けたんだ。それで救急車呼んだら、病院に付き合わされて色々と訊かれたりして、結構大変だったんだぜ」


 倒れていた人が志月の父親だった事や、その後に志津子と食事に行った事などは、変な誤解を生むかもしれないと思い、慧夢は伏せた。


「人助けしたんだ、良い事したじゃん。まぁ、慧夢は普段ろくな事してないから、たまには善行を積まないとな」


 五月の言葉に続き、素似合も慧夢の頭をポンポンと叩きながら、おどけた口調で褒める。


「褒めてやる、えらいえらい」


「別にえらいとかいう程でも無いだろ。道で倒れてる人見付けたら、誰だって救急車くらい呼ぶって」


 慧夢は面倒臭げに、素似合の手を払い除けると、鞄の中に机の中の物を移しながら、言葉を続ける。


「まぁ、そんな感じで……今日は眠くて活動にならんから、部活休みにするわ。先生来たら、俺は睡眠不足解消の為に休みだって言っといて」


「分かった。言っとく」


 五月の了承の言葉を耳にしつつ、慧夢は鞄に教科書やノートなどを移し終える。

 そして、鞄を手にして立ち上がると、五月と素似合に声をかける。


「――じゃ、またな」


「またねー」


 軽く手を挙げて、素似合が気楽な口調で別れの挨拶を口にする。


「先生には、慧夢は女と夜遊びして寝不足でしたって、付け加えておくからなー!」


 五月もふざけ半分で、別れの挨拶とは程遠い言葉を返す。


「デマ流すんじゃねぇ!」


 志津子と食事をした事は、夜遊びと言えなくはないなと思いつつ、慧夢は苦笑いしながら言い残すと、教室の出入口に向かって歩き始める。

 他のクラスメート達の声に混ざる、耳慣れた素似合と五月の会話の声を背にしながら。


 廊下に出てから、ふと……振り返り、教室の中に目をやる。

 部活動に向う支度を整えながら、楽しげに会話を続けている、五月と素似合の姿が目に映る。


(もしも黒き夢の中に入って、籠宮の命を救い損なったとしたら、こいつらの顔見るのは……これが最後になる訳か)


 そんな不安が頭に浮かび、慧夢は背筋が寒くなるのと同時に、寂しさを感じてしまうが、すぐにそれらの感情を、頭の中から追い出してしまう。


(最後になんか、なりゃしねぇよ。俺は絶対に、生きて戻るんだから)


 自分に言い聞かせる様に心の中で言い切ると、慧夢は教室の中を振り返るのを止め、廊下を歩き出した。


(不安がるのに使う時間なんてないだろ。色々と準備もあるし、さっさと家に帰らないと……)


 眠いのは事実なのだが、五月や素似合に言った「睡眠不足解消の為」という、部活を休む理由は嘘だった。

 志月の夢世界に入る為に、幾つかやらなければならない事がある為、慧夢は部活をサボるのだ。


 生徒達で賑わう廊下を、慧夢は早足で歩いて行く。階下に通じる、階段に向かって……。


    ×    ×    ×





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