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72 意訳すると、『優れた力を与えられた者は、その力を世の為に使わなければならない、例え命の危険がある場合であっても』って感じかな

「まぁ、肉体的にも精神的にもハードな仕事なのは分かり切った上で、目指して医者になったんだから、今更……愚痴る様な事でも無いんだけどね」


 そう言うと、志津子は苦笑いを浮かべる。二日前より、明らかに疲れが見て取れる顔で。


「医者になる前から、ハードなのは分かり切ってた?」


「私の家って、先祖代々が医者の家系でね、親兄弟から叔父叔母に至るまで、医者や看護師だらけなんだ。だから医者や看護師とかの……医療に関わる仕事のハードさは、子供の頃から周りを見ていて、良く知っていたのよ」


「ハードなのが分かってたのに、何で医者を?」


 努めて砕けた自然な口調で、慧夢は志津子に問いかける。

 自分だったらハードな仕事だと分かっていたら、あえて目指したりはしない気がしたからだ。


「――子供の頃は、なる気なかったんだけどね、親を見てると正直仕事にしたいとは思わなかったし」


 少し恥ずかしそうに目線を泳がせてから、志津子は言葉を続ける。


「それでも医者になろうと思ったのは、兄さんの影響かな」


「あの……脳震盪で倒れてた?」


 慧夢の問いに、志津子は頷く。


「兄さんも私と同じで、元々は医者になる気なんてなくてね、最初は医学部にも進まないで、早田そうだ大の経済学部に進学したんだ」


(早田大の経済学部って、確か無茶苦茶偏差値高いとこだよな、確か……)


 余り受験について、真剣に考えてはいない慧夢でも良く知っている程度に、早田大学の経済学部は有名であった。

 勉強が出来なかったので、医学部を諦めた訳じゃないのは、大志の進学した学部を聞けば、慧夢にも分かった。


「大学生になってからはロクに授業にも出ないで、バイトと海外旅行に明け暮れてたんだけど、冬休みに旅行した先の国で、兄さん……内戦に巻き込まれちゃったのよ」


 志津子は簡単に、大志が海外で内戦に巻き込まれた経緯を語る。

 冬休み、とあるアフリカの国を、バックパッカーとして旅行していた大志は、一気に政変から内戦へと転じる状況の中、多数の観光客と共に内戦に巻き込まれてしまったのだと。


 その国の国民や観光客と共に、大志は国外への脱出を試みた。

 だが、その途中で政府軍からか反乱軍からかは分からないが、大志は銃撃を受けてしまい、瀕死の重傷を負ったまま、国境付近の難民キャンプに運び込まれたのだ。


「――まともな医療施設もない難民キャンプで、兄さんは死を覚悟したんだけど、死なずに済んだの。銃弾の雨を掻い潜って難民キャンプを訪れた、NGOの医師団に命を救われてね」


 紛争地域や内戦状態の国など、まともな医療が行えない地域や国に、医師団を派遣するNGOの存在は、慧夢もニュースなどで見て知っていた。

 大志が命を救われたのは、そういったNGOの中でも代表的な存在であり、志津子が口にしたNGOの名は、慧夢も知っている程度に有名であった。


「死なない程度まで回復してから、兄さんは自分の命を救ってくれた医者達に、訊いてみたんだって。『自分達だって死ぬかもしれないのに、何故命懸けで戦地に赴き、医療ボランティアをしているのか?』と」


「その医者達は、何て答えたの?」


「『スーパーパワーを持つスーパーヒーローが、命の危険に怯えて悪党と戦わないで、スーパーパワーを世の中の為に使わなかったら、悪党が好き放題出来て、世の中が無茶苦茶になるだろう? だからさ』って答えたんだって」


 大志に聞いた通りに話した後、志津子は自分の理解に基づいて、話を補足する。


「意訳すると、『優れた力を与えられた者は、その力を世の為に使わなければならない、例え命の危険がある場合であっても』って感じかな」


「――そうしないと、世の中が無茶苦茶に……悪くなるから?」


 慧夢の問いに、志津子は頷く。


「命を救われた医者の話を聞いて、感銘を受けた兄さんは、帰国後に治療を続けながら受験勉強再開して、医大に入り直したんだ。自分も人の命を助けられる医者になって、その医者としての力で、世の中を少しでも良くしたいって言い出してね」


 懐かしげな表情で、志津子は言葉を続ける。


「そんな兄さんの影響で、私も医者を目指す事になったって訳」


 志津子が語って聞かせた話は、慧夢にとっては非常に印象深い話となった。

 使い方によっては、優れた力となり得るかもしれない力を、慧夢自身も持っているが故に。

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