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70 流石に本物の銃器に手は出さないよ、逮捕されちゃうから

「君……ハンヴィー知ってるんだ。初めてだよ、この車見てハンヴィーって分かった人」


 志津子は嬉しそうに、慧夢に問いかける。


「何でハンヴィー知ってるの?」


「遊んでるゲームに、良く出て来るもんで」


「ハンヴィーが出て来るゲームっていうと、ミリタリー系のシューティングとかよね?」


 この場合のシューティングというのは、画面がスクロールするタイプのシューティングゲームではなく、FPSやTPSなどの事だ。


「その手の奴です、ガキの頃から好きでやってるもんで」


「そうなんだ。私もミリタリー系のゲームや映画が好きなもんで、前にハンヴィーの中古が大量に米軍で払い下げになった時に、つい衝動買いしちゃったんだ。国産SUVの中古車と同じ位で、無茶苦茶安かったもんだから」


 楽しげな口調で、志津子は続ける。


「まぁ、結局……日本の公道走れる様にする為に、色々と改装してたら、トータルで国産の新車買うのと同じ位のお金、かかっちゃったんだけどね」


(――成る程、ミリタリー系の趣味してるんだ、籠宮の叔母さん。女の人にしては、珍しい趣味だな)


 ゲームなどで、自分が操作するキャラを乗り込ませた経験はあるが、本物のハンヴィーに乗るのは、慧夢にとっても初めての経験。

 慧夢は興味深げに、車内を見回す。


 そして、運転席のハンドルの下辺りを目にした慧夢は、驚きの余り目を丸くして、上擦り気味の声を上げる。


「は、ハンドガン?」


 慧夢の目線の先、運転席の下のボードには、黒いガンホルスターが固定してあり、ハンドガン……拳銃にしか見えない物が、その中に収まっていたのだ。


「あ、驚かせちゃった? それは本物のハンドガンじゃなくて、護身用に買ったハンドガン型のスタンガンよ」


 志津子の説明を聞いて、慧夢は安堵する。


「――良かった。ハンヴィーの本物買っちゃう人だから、ひょっとしたら……これも本物なのかと」


「流石に本物の銃器に手は出さないよ、逮捕されちゃうから」


 慧夢の言葉に苦笑しながら、志津子は右手の親指で後部座席を指差す。


「後部座席のホルダーのアサルトライフルも、本物じゃなくて只のモデルガンだし」


(この人……相当に濃いミリタリーマニアだな)


 志津子の趣味を理解し、心の中で呟いた慧夢の頭に、ふと……志津子の夢世界から出た直後の、志津子の独り言を思い出してしまう。


「これってやっぱり、私が高齢処女を拗らせてるせいなのかな? 自分の性的経験が歳相応でない事に対して、潜在的に劣等感を抱いている為、そんな自分と釣り合う年齢の相手を、性的願望の対象としてしまっているのが、夢に反映されてしまったとかで」


 独白の内容から、志津子が余り男性と縁が無い……モテないらしい事を、慧夢は察していた。

 顔は美人といえるレベルで整っていて、胸も豊かと見た目には恵まれている志津子が、「高齢処女を拗らせてる」と独白したのを聞いた時、慧夢は意外さを感じたのだ。


 だが、濃いミリタリー趣味の持ち主であるのを知った今、ようやく慧夢は合点がいった気がしていた。

 志津子が「高齢処女を拗らせてる」と自認する程度に、モテていない理由について。


(そりゃ、車内をモデルガンで飾りまくっている、米軍払い下げの軍用車両を乗り回す様な女の人は、モテないわな……流石に濃過ぎて)


 慧夢自身はミリタリー系のゲームが好きなので、多少濃過ぎると呆れつつも、どちらかといえば好みに合う趣味。

 それに、夢芝居で色々な人の「本当の趣味」を知ってしまった慧夢からすれば、人間の趣味は人それぞれ、様々なのは当たり前でしかない。


 他人がどんな趣味を持ち合わせていようが、合法的で実害を及ぼさない限り、嫌ったり避けたりもしないという考えに、慧夢は至っている。

 故に、志津子の濃過ぎるミリタリー趣味も、慧夢自身にとっては女性の魅力を殺ぐ要素とはならない。


 だが、一般的な男性が恋愛対象として女性を見る場合、濃過ぎるミリタリー趣味というのは、マイナス要素として働き得るだろうという常識も、慧夢は一応は持ち合わせている。

 それ故、志津子が男性に縁が無さそうな人生を送って来た理由が、濃過ぎるミリタリー趣味のせいなのだろうと、推測したのだ。


(まぁ、仕事が忙し過ぎて、暇が無かったりもするんだろうけど……)


 慧夢は心の中で付け加える、志津子に対するフォローのつもりで。


「じゃあ、車出すから。自転車がある事故現場までは、ナビしてくれると有り難いんだけど」


 一時停止させていたハンヴィーを、志津子はスタートさせる。

 アイドリング状態の間は、多少音が静まっていたのだが、ハンヴィーは再び大きな音を立て始め、ハイパワーのエンジンの駆動は、車体を震わせる。


「とりあえず、門を出たら左折して下さい」


 ヘッドライトに照らされ浮かび上がる、古い学校の校門に似た、籠宮総合病院の門を見ながら、慧夢は志津子に声をかける。


「左ね……」


 そう呟くと、志津子は門を抜けるまで徐行を続けてから、ハンドルを左に切って、ハンヴィーを左折させる。

 その後も志津子は深夜の道路に出たハンヴィーを、慧夢のナビゲーションに従って、運転し続けた。


 人気も無く車通りも少ない深夜の道路を、ハンヴィーは走る。

 慧夢が自転車を放置している、ファミリーストアの近くの事故現場に向かって……。


    ×    ×    ×






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