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07 でも、私……はっきり言って、貴方みたいに、知識をひけらかす人……嫌いだわ

「さっき、当摩先生は俺との雑談で、何度も『悪党』って言葉を使っただろ? あれは、今授業でやっている、荘園公領制と関係する、日本史用語の『悪党』と関連付けて、生徒達の記憶に残り易い様にする為に、わざと雑談に織り込んでいたんだよ。精緻化リハーサルを利用してね」


 夢に関する特殊能力を受け継いだせいか、夢判断を入り口として、心理学にも興味が有り、慧夢は心理学系の本を読み漁っていた時期がある。

 その時に知った、精緻化リハーサルを、どうやら伽耶が授業中の雑談で、さりげなく利用しているらしい事に、慧夢は以前から気付いていた。


 伽耶が授業中にする雑談と、授業で教えている内容はリンクしている場合が殆ど。

 授業より記憶に残り易い雑談の話題が、実は授業内容と関わっているお陰で、結果として授業内容の方も、記憶に残り易いのを、慧夢は経験として理解していた。


 慧夢の説明を聞いて、志月だけでなく、他の生徒達も伽耶の雑談が、授業に無関係では無く、意味が無い訳では無いのを理解した。

 慧夢と志月の論争は、この時点で決着したも同然。


 ここで止めておけばいいのだが、止められない辺りが、目付きの悪さだけでなく、口の悪さでも名が知れ渡ってしまう、慧夢の悪い所だ。


「――ホームグラウンド効果みたいな、割と常識的な雑談の効用も知らず、当摩先生が利用している、授業の効果を高める為の雑談のテクニックにも気付かないとか。籠宮さんって、勉強出来るけど……割と物知らずで、鈍いよね」


 嘲る様な口調で、慧夢は続ける。


「だいたい、心理学に関する知識以前に、人が集まるところで、コミュニケーション高める手段として、雑談利用しないとこなんて無いでしょ。籠宮さんは、この先の人生で関わる人間関係で、人が雑談するのを聞く度に、文句つける訳? そんなんじゃ、この先の人生、まともにやっていけるとは……」


 慧夢が言い終わる前に、志月は口を開き、強い口調で言い放つ。


「――それ以上言わなくても、貴方が私より物知りで、鋭いのは分かったよ」


 手痛い反論を受けて論破され、受けただろう精神的ダメージを表に出さぬ様に、努めて感情を押し殺した口調で、志月は続ける。


「でも、私……はっきり言って、貴方みたいに、知識をひけらかす人……嫌いだわ」


 そう言うと、志月は踵を返し、足早に歩き去って行く。


「そりゃ……気が合うな。俺も籠宮さんみたいに、細かい事で他人に文句ばかり言う奴、嫌いだから」


 志月の背中に、そんな追い討ちの言葉を慧夢がかけて、二人の会話は終わる。

 ほんの少し前まで、楽しげに賑わっていたのが嘘の様に、慧夢と志月の言い合いが終わった後の教室の雰囲気は、どんよりと重苦しくなっていた。


 そんな教室の雰囲気の変化を、慧夢は察する。

 それだけでなく、多くの生徒達が、言い合いに敗れて、悔しさを噛み殺しながら、机の中から鞄に教科書やノートを移している、志月の側に同情的であり、勝った自分の方を責める様な視線を送っている事に、慧夢は気付く。


(――しまった! また……やっちまった)


 自分が反論の域を超え、言い過ぎてしまったのを、慧夢は自覚し後悔する。

 過去の言い合いや口喧嘩の際、つい言い過ぎてしまい、言い合いの相手どころか、周りにいた者達から、反感を買ってしまう経験を、慧夢は過去に何度も繰り返していた。


 目付きが悪いのと同様、口が悪いのも自覚しているので、言い過ぎは控えるよう、慧夢は一応、心がけてはいるのだ。

 それでも、今回の様に言い合いが決着した後、追い討ちをかける様な失敗を、慧夢は繰り返してしまっている。


「良かったな、籠宮が泣き出す前に、逃げてくれて」


 そんな慧夢の口の悪さが、行き過ぎてしまった実例を、過去に何度も目にしている素似合が、慧夢の肩を軽く叩きながら、話を続ける。


「あれ……あのまま続けてたら、籠宮泣き出して、お前……またクラスでの立場、凄く悪くなってたぞ」


 中等部の頃、似たようなシチュエーションで、慧夢は女子生徒を泣かせてしまった事がある。

 慧夢からすれば、言いがかりに近い女生徒の文句に、反論しただけなのだが、それでも泣き出した女子生徒の方に、教師もクラスメート達も圧倒的に同情的。


 悪者にされた慧夢は、クラスで立場が物凄く悪くなった事があった。

 素似合や五月など、小学生時代からの腐れ縁の幼馴染や、他に親しい小規模部活棟仲間が数名、同じクラスにいたので、孤立は避けられたのだが。


「まぁ、僕も籠宮は……嫌いとは言わないまでも、正直苦手なタイプだから、気持ちは分からないでもないんだけど、やり過ぎはよくない」


 慧夢と五月以外には聞かれない、素似合の囁き声を聞いて、五月が意外そうに問いかける。

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