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62 起きろーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! このままだと車に轢かれるぞーーーーーーーーーーーーーーーー!

(三日前に見た時より、かなりやつれてる感じだな……って、悠長に観察してる場合じゃない! 起こさないと!)


 そう考えた慧夢は、揺さ振って起こす為に、志月の父親に手を触れた直後、その考えを改める。


(いや、事故って頭を打った人は、素人が揺さ振ったりしたら、やばいんじゃなかったっけ?)


 以前目にした医療系のバラエティ番組で知った、応急処置に関する知識を、慧夢は思い出す。

 頭や首……背骨などを、強く打った人の身体を安易に動かすと、より酷いダメージを、与えてしまう可能性があるといった感じの知識だ。


(動かすのはやばいとなると、かなり霊力食うけど……声ならどうだ?)


 幽体の状態の慧夢は、物を動かすという物理的な現象を起こせるのと同様に、普通の人間に聞こえる声を出したりも出来る。

 だが独白としての声と違い、普通の人間に聞こえる声を幽体で出すと、激しく霊力を消耗してしまう。


 慧夢は息を深く吸い込むろ、志月の父親の耳元で、空気を震わせる程の大声を上げる。


「起きろーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! このままだと車に轢かれるぞーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 更に続けて、慧夢は色々と大声を上げ続けるが、志月の父親は何の反応も見せない。


「声も駄目か! だったら、どうすれば?」


 慧夢は辺りを見回す、辺りには誰もいないし、民家も無いので助けも呼べない。

 公衆電話でもあれば、非常用のボタンを使って、救急車やら警察やらを呼べるのだろうが、今時公衆電話など、簡単に見付かるものではない。


「あ、電話……電話なら、籠宮の親父さんが持ってるかも?」


 公衆電話は無理でも、志月の父親が携帯電話を持っていれば、それを使って慧夢は救急車を呼ぶ事が出来る。

 慧夢は早速、志月の父親の身体を動かさない様に、ズボンやシャツのポケットを探り、ズボンのポケットに入っていたスマートフォンを発見する。


 だが、スマートフォンのモニターには、見事にひびが入っていた。

 転倒した時にポケットがある尻を打って、破損してしまったのだろうと慧夢は思う。


「壊れてる……でも一応!」


 動けと願いながら、慧夢はスマートフォンのボタンを押す。

 だがスマートフォンは黙ったまま、全く起動する様子を見せない。


「やっぱ駄目か! これじゃ救急車呼べないじゃん!」


 スマートフォンが壊れている以上、救急車を呼ぶのは不可能。

 慧夢は苛々を隠さぬ口調で言葉を吐き捨てながら、スマートフォンをズボンのポケットに戻す。


(やばい、霊力殆ど残ってない!)


 人の聞こえる声を、しかも大声を何度も上げ続け、志月の父親の着衣を探ってスマートフォンを探し出し、スマートフォンを操作するという一連の行動により、慧夢は霊力を激しく消耗してしまった。


(あと十数秒、もつかどうかだ! 何か……何か出来る事は?)


 慧夢は自問するが、この場で助けを呼ぶ方法は思い付かない。

 肉体に戻ってから、電話で救急車を呼ぶくらいの事しか、慧夢には出来そうになかった。


(電話で助け呼ぶにしろ、ここ何処だ?)


 自分がいる通りが何処だか分からないのに、慧夢は今になって気付く。

 市の北側郊外に出るか出ないかの辺りなのは知っているのだが、普段全く訪れないエリアなので、具体的にどの通りなのか、慧夢には分からないのだ。


 籠宮総合病院を一度だけ、実際に訪れた際に通った道とは違う。

 地図を何度も見たとはいえ、慧夢の場合は空を飛ぶ前提で、籠宮総合病院の位置を地図的に把握していただけなので、道路は余り正確に記憶していなかったのである。


(救急車を呼ぶにしろ、正確な場所が分からないと!)


 僅かに残された時間に、慧夢は何をすべきか気付く。

 電話で助けを呼ぶ為に、志月の父親が倒れている、この場所が何処なのかを把握しなければならないと、慧夢は気付いたのだ。


(確か電柱に、住所とか路線番号とか書いてある筈だ!)


 慧夢は近くにある電柱に駆け寄り、住所や路線番号が記してあるプレートを探す。

 だが、不動産業者や胡散臭い店などが宣伝の為に貼った貼紙や、針金で巻きつけた看板に、電柱は覆われていて、住所や路線番号が記してあるプレートは、見えなくなっていた。


 霊力が尽きかけた今となっては、貼紙や看板を外してプレートを探すのも、慧夢には無理。


(だったら、せめて他に場所が分かるものを……)


 慧夢は周囲を見渡して、場所を特定出来る存在を探す。

 小さな家程の大きさに見える籠宮総合病院の建物や、籠宮総合病院の反対側……かなり離れた場所に、豆粒程の大きさに見える、青く光っている看板らしきものがあるのを視認し、慧夢は記憶する。


 直後、慧夢の幽体はその場から消え去り、同時に意識も途切れてしまう。

 慧夢の幽体は、とうとう霊力切れを迎えてしまったのだ……。


    ×    ×    ×





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