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06 それと夢占君、貴方にも言いたい事があるのだけど……

 美少年同士の恋愛物を好む、腐女子である五月と、可愛い女の子が大好きであり、レズを自認する素似合……。

 二人が互いの趣味を叩き合い、下品な論争を始めるのは、このクラスでは珍しい事では無い。


 幼馴染で親しい二人なのだが、その辺りの趣味に関しては、お互い譲るという事を知らないのだ。


「拝島は可愛いし、安良城は美人系なのに、残念なキャラしてるよな……どっちも」


「ノーマルな恋愛に走れよ、どっちも……」


 五月はファッションに無頓着で、野暮ったさを感じさせる所はあるのだが、黙っていれば、読書好きの可憐な文学少女といった佇まい(読むのはBL小説やマンガが中心であっても)。

 男子生徒達からの人気も、かなり高い部類の女生徒。


 素似合は沖縄生まれのブラジル人とのハーフで、日本人離れしたスタイルと派手な顔立ちで魅力的。

 スポーツ万能で明朗快活、男子生徒以上の長身を生かしてバスケットボール部で活躍中、男子の間でも女子の間でも、基本的には人気が高い女子生徒だ。


 五月の場合は行過ぎた腐女子的言動、素似合の場合は行き過ぎた美少女好きの言動などが、普通の生徒達をドン引きさせる場合が多い。

 結果として、男子生徒からの評価はどちらも、学年でもベストテンに入る、クラスの三大美少女の二人であるにも関わらず、かなり残念な美少女という辺りで、落ち着いている。


 そして、クラスの三大美少女である、もう一人も、会話に参加してくる。

 しかも、かなり厳しい口調で。


「――拝島さんに安良城さん、何時も言っている事だけど、教室の中で大声上げて、下品な口喧嘩するのは、止めて下さらない?」


 会話に参加して来たのは、何時の間にか、五月や素似合……そして慧夢がいる、教室の窓側後方に歩いて来ていた、志月だ。


「貴女達が、どんな性癖の持ち主だろうが、別に構いはしないのだけど、教室っていう公共の場で、大声でしていい会話かどうかの判断くらい、いい加減出来る様になりなさいよ」


 志月の注意は常識的かつ正論であり、教室内に残っていた生徒達の多くが、心の中で頷く。

 一部は実際に頭を動かして頷き、志月に同意を示す。


 クラスのリーダー格である志月の、クラスメートの無言の同意を味方にした注意には、素似合も五月も、言い返し難い。

 若干、下品な話をし過ぎた自覚もあった為、二人は気まずそうに口論を止める。


 素似合と五月が下品な口論を始め、それを志月がたしなめるという流れは、これまで何度か繰り返された事。

 二人を窘める目的を果たした志月は、背を向けて去るのが常なのだが、今回は違った。


 今度は慧夢に歩み寄り、素似合や五月に声をかけた時と同様に、厳しい口調で声をかけたのだ。


「――それと夢占君、貴方にも言いたい事があるのだけど……」


(げ! 俺もかよ)


 矛先が自分に向いて来たのを知り、慧夢はげんなりとする。

 美少女であっても、厳しく真面目過ぎるところがある志月は、慧夢にとって苦手なタイプだった。


「幾ら貴方と当摩先生が、個人的に親しいからといって、さっきの日本史の授業中みたいに、授業と無関係な雑談を、授業中に長々と続けるのは、いい加減止めてくれない?」


 授業中に雑談をするなというのは、正論である。

 正論ではあるのだが、自分が正しいという事を疑わずに、正論をふりかざす人間というのは、割と面倒臭さを他人に感じさせるものだ。


 その類の面倒臭さを感じてしまった慧夢は、素直に注意を受け入れる気になれず、言い返す。


「長々? たかが一~二分じゃないか」


「一~二分でも、授業と無関係な雑談されるのは、他の生徒達からすれば迷惑なのよ」


「その迷惑で無関係な雑談を、何で教師がするのかって、籠宮さんは考えた事あるのか?」


「何でって……そんなの、本来の目的を見失って、脱線してるだけでしょ」


 志月の返答を聞いて、慧夢は呆れた様に、肩をすくめて見せる。


「分かって無いねぇ、籠宮さんは。教師がする授業中の雑談っていうのは、無関係でもなければ無駄でもない、意味がある雑談なんだよ」


「意味がある? 雑談なんかに、何の意味があるっていうのよ?」


「ホームグラウンド効果って知ってる?」


 知らない言葉なのだろう、慧夢の問いに、志月は首を横に振る。


「自分が慣れ親しんでいる、ホームグラウンド的な場の方が、何かをする場合……上手く行き易いんだ。緊張せずに済んで、持ってる力を発揮出来るからね。これを、心理学ではホームグラウンド効果というのさ」


 こんな事も知らないんだと、言わんばかりの口調で、慧夢は続ける。


「雑談っていうのは、場を和まして緊張を和らげ、このホームグラウンド効果を高める効果がある。だからこそ大抵の教師は、授業中……適度に、雑談を挟むんだよ」


 自分が知らない、詳しくない心理学のジャンルの話題を持ち出され、志月は上手く反論出来ない。

 何か言いたげな表情を浮かべはするが、言葉が出てこない感じで。


「それと、精緻化せいちかリハーサルは知ってる? これ、さっき当摩先生が、意識的に使った奴なんだけど」


「――知らないわよ」


「簡単に言えば、覚えたばかりの情報を、他の情報と結びつけると、長期記憶に残り易い……つまり覚え易いのを意味している、心理学用語さ」


 実際には、他にも様々な概念を含んでいる、心理学用語なのだが、不要な部分は大胆に端折った上で、慧夢は説明を続ける。

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