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57 だったら、あくまで仮にの話だけど……籠宮が死のうとしたら、慧夢は助ける?

「――いや、でも……慧夢の周りって言っていいかどうか微妙だけど、一人いるじゃないか、慧夢に関わりがある……死にたがってる奴」


 素似合が誰の事を言っているのか、慧夢には想像がついた。

 でも慧夢は惚けて、素似合に訊ねる。


「それって……誰の事?」


「籠宮だよ。何日か前に話しただろ、あの噂話」


「あの噂話?」


「永眠病かもしれないウチの女生徒が、籠宮総合病院に担ぎ込まれたんだけど、その女生徒が籠宮なんじゃないかっていう、澪が入院中の御祖母さんに聞いた噂話」


「ああ、あれか」


 忘れてたと言わんばかりの、慧夢の口調。


「籠宮が永眠病なんだとしたら、自分で死のうとして、チルドニュクスを飲んだって事だろ? お兄さんが死んだショックが原因で……」


「籠宮がチルドニュクス飲んだっていうのも、そのせいで永眠病になったかもっていうのも、ただの噂話じゃないか」


 努めて気楽な口調で、慧夢は素似合の話を否定してかかる。


「兄貴が死んだ心労から、一週間程学校休んでいる籠宮を、永眠病じゃないかって噂話にしてる連中がいるだけの話だろ。無責任な噂話さ、信じる方がどうかしてる」


「それは、そうなんだろうけど」


 慧夢の言葉に、素似合は言い返しはしない。

 素似合自身も、志月がチルドニュクスを飲み、永眠病になったという話を、ひょっとしたら真実かも知れないと思いながらも、基本的には無根拠な噂話だと、認識しているからだ。


 実際には事実なのだが、志月がチルドニュクスを飲んだのを知っているのは、絵里と慧夢だけ。

 自分が志月を止められなかった後ろめたさもあり、その話を絵里は慧夢以外には話していない。


 絵里が慧夢に話したのは、夢に入れるという噂がある慧夢に、眠り続ける志月の夢に入って、志月を夢の中から連れ戻して欲しいと頼もうとしたが故。

 素似合を含め、他のクラスメート達には一切、その話を絵里はしていないのである。


「――籠宮も含めて、誰一人俺の回りに、死にたがってる奴なんていないって」


 何の不自然さも無く、慧夢は涼しい顔で嘘を吐く。


「だったら、あくまで仮にの話だけど……籠宮が死のうとしたら、慧夢は助ける?」


 胸を殴られたかの様な衝撃を心に受け、慧夢は一瞬……表情を強張らせるが、素似合に気取られる前に、表情を自然な風に和らげる。


「さぁ、どうだろうな? 親しくも無いし、どちらかと言えば嫌いなタイプだけど、死のうとするのを放っておくのも、人としてどうかと思わないでもないし……」


 慧夢は考え込む振りをしてから、肩を竦めて言葉を続ける。


「そういう状況になってみないと、分からないよ」


(そういう状況になってみても、分からないのが現実なんだけどな)


 分からずに悩んでいる最中の慧夢は、心の中で愚痴る。


「――僕は慧夢なら、助けると思うけどね。そういう状況になったら」


 素似合が迷い無く言い切ったのが不思議だったので、慧夢は理由を訊ねる。


「何故、そう思うんだ?」


「何故って……君は結構、人が困ってると助けるじゃないか」


「そうかな? そんな覚えないけど」


 謙遜でも惚けているのでもなく、慧夢には実際のところ、そんな覚えは無かった。


「自覚無いんだ。僕だって結構色々と、助けて貰ったものだけど」


「――俺が素似合を? 例えば?」


 問われた素似合は、少しだけ考えてから、おもむろに口を開く。


「例えば……さっき話した、僕が偽物の人生生きるのを止めた後とか……」


 その時の事を思い出しているのか、懐かしげな口調で素似合は続ける。


「あの頃、クラスの連中から僕はハブられてたけど、慧夢と五月だけは変わらずに、僕と遊び続けてくれたじゃないか。変わらないでいてくれた君には、かなり助けられたと思ってるし、感謝もしているんだけどね」


「あれは別に、助けたとかいうたぐいのもんでもないだろ。他の奴がどうだろうが、友達なら普通の事だ」


 感謝しているなどと言われるのは気恥ずかしいし、助けた自覚は無いので、慧夢は素似合の言葉を否定する。


「そうかな? 僕はあの頃、友達面してた連中に……かなりの数裏切られたんだけどね。数で言うなら、むしろ態度変えたり裏切る奴等やつらの方が、普通だった程さ」


 素似合の言う通り、元々は友達も多かった素似合の場合、態度を変えなかった慧夢と五月の方が少数派であり、殆どの友達には裏切られたも同然の目に遭っていたのだ。


「慧夢も五月も、そういう意味で普通じゃないんだよ。普通の人間は簡単に、周りに流されるんだから」


(まぁ、あの時……俺が態度変えなかった原因は、人の夢の中に入れるからなんだし、普通じゃないといえば、確かに普通じゃないな)


 心の中で呟いた慧夢の顔に、探る様な目線を送りながら、素似合は少しだけ迷いの表情を見せる。

 そして意を決した様に、素似合は慧夢に問いかける。

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