54 慧夢からすれば、人間が呆れ果てる様な願望や欲望を隠し持っているのは、当たり前の事でしかない
五月は小五の時点で、既に教室内でBLマンガを読み描きする程に、濃い腐女子と化していた。
男性同性愛のフィクションを楽しむ五月からすれば、自分の趣味とは違っても、女性の同性愛者自体は、属性の一つ程度の認識でしかなかった。
別に好きでも無いが、それを理由に避ける事も無いし、接し方が変わったりもしない……。
それが五月の素似合に対する、当時のスタンスだったのだ。
自分のBL趣味を、からかったりする素似合に言い返す形で、素似合のレズビアン趣味を批判したりして、下品な口喧嘩をしたりもするが、それは親しさを前提とした、じゃれ合いの様なもの。
五月自身は合法的な範囲において、女性の同性愛だろうが何だろうが、他人の性的趣向を否定したり、性的趣向を理由に他人を遠ざけたりする人間では無い。
慧夢の場合は、実はカミングアウト以前から、素似合がレズビアンである事を知っていた。
うっかり素似合の夢に入ってしまった際に、素似合が隠していたレズビアンとしての性癖を、知ってしまっていたので。
素似合のレズビアンとしての性癖や、美少女ハーレム願望などを知った時、慧夢は当然の様に呆れ果てた。
今現在、その手の願望についての話や、願望を有る程度叶えているらしい話を、素似合から聞いてしまった時と同様に。
だが、当時の慧夢は人間不信を拗らせる程、人々が当たり前の様に、とても人には言えない様な、醜い欲望や願望を抱いているのを、夢を通して知っていた。
女の子が好きで、沢山の女の子と付き合いたいなどという、素似合の夢や願望……秘密などは、慧夢が見てきた、恨みや妬み……後ろ暗い欲望などに塗れた、数多くの者達の夢や願望に比べれば、割とまともな部類だったのだ。
慧夢からすれば、人間が呆れ果てる様な願望や欲望を隠し持っているのは、当たり前の事でしかない。
素似合が美少女ハーレム願望を持つ、レズビアンであるという秘密を知っても、そんなのは慧夢にとっては、呆れはすれども大した問題では無かった。
故に、素似合が美少女ハーレム願望を持つレズビアンである程度の事で、慧夢は接し方や態度を変えようとは思わなかったのだ。
他人の夢の中に入れるという秘密を、隠し続けている事に、後ろ暗さを感じていた慧夢の場合、むしろカミングアウトにより、隠していた秘密を堂々と表に出した素似合に、ある種の感動すら覚えた程なのだから。
という訳で、慧夢は五月と共に、カミングアウト後も以前と変わらぬ態度で、素似合と接し続けたので、素似合は完全なる孤立や孤独に陥る事は無かった。
この期間、素似合がいると他の友人が遊びの輪に入って来なくなった為、以前より慧夢と五月……素似合だけで遊ぶ機会は増え、腐れ縁の三人組と化する流れが確定したのだ。
その後、クラス替えが無いまま小六に進級しても、そんな日々が暫くは続いたのだが、一学期の終りの頃から、変化が始まった。
クラスメートからの扱いは相変わらずだったのだが、素似合は主に後輩の女の子達から、人気を得始めたのである。
素似合は元々、背の高さや男子以上の運動能力から、小学校では有名な存在だった上、レズビアンだとカミングアウトした事により、全校の児童から知られる存在となった。
多くの児童達は、クラスメート同様の反応を見せたのが、一部の後輩の少女達は違った。
レズビアンだとカミングアウトした素似合に、好意を寄せる少女達が現れ始めたのだ。
思春期に歳上の同性に憧れるレベルの少女もいれば、素似合同様にレズビアンであるのを隠していた少女まで、好意の種類や程度は様々ではあったのだが。
この時期、好意を寄せて来る歳下の少女達に、素似合は精神的に救われた影響なのだろう。
素似合は歳下趣味が定着し、中等部の頃には自分のガールフレンド達を、「妹」と称する様になった。
今現在の妹達の中で、中心的な存在である澪や愛莉も、この時期に素似合と知り合ったのだ。
ちなみに二人は、歳上の同性に憧れる方ではなく、素似合同様の方である。